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第百四十四話 野戦

 試合会場『野戦』は、その名の通り、開けた草原が試合会場であった。


 試合開始の合図と共に、二つの小隊は、試合会場の中央を目指して走り寄る。


 アレク達は、試合会場の中央より少し手前で立ち止まり、隊列と陣形を整える。


 ドミトリーは、アレク達に向けて強化魔法を唱える。


筋力(レッサー・)強化(ストレングス)!!」


 アルは、アレク達の前に出ると右腕に持った斧槍(ハルバード)を水平に構えて、口を開く。


「貴族組なんて、先輩達並みに雑魚だろ。・・・アレク、任せろ!」


 アルに続いてトゥルムもアレク達の前に出てアルと並び、三叉槍(トライデント)を水平に構える。


「良いぞ! アル! ・・・ふふふ。共に『黒い剣士』直伝の槍術を披露しようぞ!」


 アルは、左手で兜の面頬を下ろして、腰を落として深く息を吸い込み、貯めの姿勢を取る。


 トゥルムもアルと同じく、貯めの姿勢を取る。


 広がる草原に体格と腕力のある二人が並び立ち、同じ構えで敵に対峙する姿は、ある意味で壮観であった。




 


 キャスパーは、アルとトゥルムが隊列の前に出るのを見て叫ぶ。


「二人で我らの相手をしようだと!? ナメくさりおって! 行くぞ! 蹴散らしてくれる!」


 キャスパー達のバジリスク小隊は、アレク達ユニコーン小隊を目指して一斉に駆け寄って来る。


 キャスパー達のバジリスク小隊がアルとトゥルムの目前に迫る。





(いくぜ! (いち)(せん)!!)


 アルの渾身の力を込めた斧槍(ハルバード)の一撃が剛腕から放たれる。


 トゥルムもアルと呼吸を合わせ、同時に三叉槍(トライデント)の一撃を放つ。




 次の瞬間、キャスパーが転ぶ。


 転んだキャスパーは、自分の右隣を走る従騎士(スクワイア)を巻き込んで転ばせる。

 




 アルとトゥルムの渾身の一撃は、それぞれ一人の従騎士(スクワイア)を捉える。


「ごふぁっ!?」


「がはぁっ!!」


 水平に振るわれた斧槍(ハルバード)三叉槍(トライデント)の一撃を食らった従騎士(スクワイア)達は、鈍い金属音と共に肺の中の空気が押し出されるような嗚咽を漏らしながら、二人とも胴体に槍の穂先の背を食い込ませて弾け飛ぶ。


 転んだたキャスパーの頭上を、風を切る轟音と共に斧槍(ハルバード)三叉槍(トライデント)が通り過ぎてゆく。


「ヒィイイイ!!」


 キャスパーは驚いて、その場で自分の頭を抱えて屈み込む。


 キャスパーに巻き込まれて転倒した従騎士(スクワイア)は口を開く。


「キャスパー男爵!? 一体、何を?」


 キャスパーは、起き上がりながら甲高い怒声で答える。


「うるさい! 転んだだけだ!」


 


 ナタリーは、キャスパーと転んだ従騎士(スクワイア)を狙って手をかざし、魔法を唱える。


火炎(ファイヤー)(・ボール)! 火炎(ファイヤー)(・ボール)! 火炎(ファイヤー)(・ボール)!!」


 ナタリーは、三回連続で第一位階魔法の火炎(ファイヤー)(・ボール)を放つ。


「ヒィイイイ!」


 キャスパーは、隣に居る転倒した従騎士(スクワイア)を盾にして隠れ、ナタリーの魔法を防ぐ。


「ぐぁあああ!」


 ナタリーの魔法火炎(ファイヤー)(・ボール)は、盾にされた従騎士(スクワイア)の身体を焼く。




 ナタリーは、『爆炎の大魔導師』と呼ばれ帝国魔法科学省長官を務めるハリッシュの娘であり、その血を受け継いだだけあって幼い頃から魔法の才能を発揮し、現在も基本職でありながら第六位階魔法まで使いこなす事ができた。


 それこそ、第一位階魔法の火炎(ファイヤー)(・ボール)程度なら、十回連続で放つ事もできた。


 傍らのドミトリーはナタリーを制止する。


「ナタリー! もういい! 殺してしまうぞ!」


(いけない!)


 ドミトリーの制止に、ナタリーはハッとして魔法攻撃を止める。


 魔法攻撃を受けた従騎士(スクワイア)は、全身のあちこちに火傷を負い、煙と共にうめき声を上げていた。


 




「回り込め!」


 アレクの掛け声でアレクとルイーゼ、エルザとナディアは、バジリスク小隊の左右に回り込む。


 バジリスク小隊の後衛は、四人全員が女の子であった。





 バジリスク小隊の右側に回り込んだアレクとルイーゼの前に、バジリスク小隊の後衛の魔導師と僧侶が現れる。


 バジリスク小隊の僧侶は、アレクからの攻撃に備えて木の棒を構える。


(・・・相手は女の子か!)


 アレクは両手で剣を大上段に構えると、僧侶が構える()()()()()()()、斬り付ける。


 ミスリル製のアレクの剣が、僧侶が構える木の棒を一刀両断する。


「えっ!?」


 僧侶の女の子は、構えていた木の棒が一刀両断され驚く。


 アレクは、剣を鞘に収めて僧侶の女の子の腕を捕まえると、後ろ手にねじ上げる。


 


 バジリスク小隊の魔導師の女の子は魔法を唱えようとしていたが、手甲の爪を構えながら駆け寄って来るルイーゼの接近に、魔法の詠唱から杖での接近戦に切り替え、杖を構える。


 魔導師の女の子は、ルイーゼに向けて杖で殴り掛る。


 ルイーゼは身を屈めて杖での攻撃をかわすと、魔導師の懐に踏み込み、肘で魔導師の水月(すいげつ)を打つ。


「うっ!」


 短い嗚咽と共に魔導師の女の子は、ルイーゼの足元に前のめりに倒れる。


 目の前の敵を倒したルイーゼがアレクに微笑み掛ける。


 アレクは僧侶の女の子を捕まえたまま、苦笑いでルイーゼに答える。


(・・・女の子同士の戦いって、容赦無いな)




 バジリスク小隊の左側に回り込んだエルザとナディアの前に、バジリスク小隊の後衛の斥候と魔導師が現れる。


「おりゃああああ!」

 

 エルザは、雄叫びを上げながら両手剣で斥候を斬り付ける。


 斥候の女の子は、ショートソードでエルザの斬撃を受け止めるが、両手剣の斬撃の重さに後退る。


「ぐうっ!」


 エルザは斬撃の勢いに乗ったまま素早く身を翻して屈むと、地面すれすれに後ろ回し蹴りを放ち、斥候の足を狙う。


「あうっ!」


 エルザの後ろ回し蹴りは斥候の足を捕らえ、斥候の女の子は転倒する。


 起き上がろうと上半身を起こす斥候の顔先に、エルザは両手剣を突き付ける。


「勝負あったわね」


 

 

 魔導師の女の子は、駈け寄って来るナディアに向けて手をかざすと、魔法を唱える。


氷結水晶(クリスタル・)(ランス)!」


 かざした手の先の空気中に氷の槍が造られ、ナディアに向けて飛んで行く。


 ナディアは、魔法での攻撃を避けるとレイピアを抜き、魔導師に斬り掛かる。


 魔導師は、杖でナディアの斬撃を防ぐ。


 魔導師は、攻撃してくるナディアの容姿を見て驚く。


「・・・エルフ!?」


 ナディアは、不敵な笑みを浮かべながら答える。


「そうよ! 驚いた?」


 ナディアは、三回連続でレイピアで魔導師を斬り付け、レイピアと杖が乾いた音を立てる。


 続けざまにナディアは、後ろ回し蹴りを二回連続で放ち、魔導師の頭を狙う。


「・・・くっ!」


 魔導師は、大きく身を反らしてナディアの連続後ろ回し蹴りを避ける。


 しかし、後ろ回し蹴りはナディアのフェイントであった。


 ナディアは、連続で後ろ回し蹴りを放ちながらレイピアを鞘に仕舞うと、戦槌(メイス)に武器を持ち換え、両手で振り回す様に戦槌(メイス)の一撃を放つ。


 身を反らしてナディアの蹴りを避けた魔導師は、戦槌(メイス)の一撃を避けきれず、重い一撃が胴に炸裂する。


「かはっ!」


 嗚咽と共に魔導師の女の子は、その場にうずくまる。


 ナディアは、嗚咽を上げてうずくまった魔導師の女の子に告げる。


「手加減できなくて、ごめんなさい。・・・結構、痛そうね」


 

 

 僧侶の女の子を捕まえたままのアレクとルイーゼが、エルザとナディアのところにやって来る。


 アレクは、笑顔で口を開く。


「・・・勝ったな」


 アレクの言葉にルイーゼも笑顔で答える。


「ええ」


 エルザも笑顔で答える。


「今回は、エルザちゃんも頑張ったもんね!」


 ナディアは冗談を言ってアレクをからかう。


「・・・それで、アレク。その捕まえている僧侶の子や、この女の子達はどうするの? ・・・また、裸にして縄で縛って犯すの?」


「ええっ!?」


 ナディアの冗談を聞いたバジリスク小隊の女の子達は、一斉に驚きと怯えた表情を受かべ、エルザとルイーゼは赤面する。


 アレクは、必死にナディアの言葉を否定する。


「いや! そんな事してないだろ!」


 ナディアは、冗談を続ける。


「アレクって、この前の試合も僧侶の女の子を捕まえていたじゃない? ・・・きっと神職の女の子を無理矢理、裸にして縛って凌辱するのが好きなのね? ・・・エロい! エロいわ!!」


 アレクに捕まっている僧侶の女の子はナディアの冗談を聞いて、今にも泣き出しそうな表情を顔に浮かべる。


 アレクは、捕まえている僧侶の女の子を離すと、自分の方に女の子の正面を向かせて両肩に手を置き、優しく告げる。


「大丈夫。安心して。そんな事はしないから」


 僧侶の女の子は、その場にペタンと座り込むと、安心して泣き出した。


 アレクは、半ば諦めたような顔でナディアに告げる。


「ほら。泣いちゃったじゃないか。・・・ナディア。頼むから変な話を広めないでくれ」


 ナディアは、悪戯っぽい顔でアレクに答える。


「・・・ごめんなさい。ちょっと、からかっただけよ」





 ユニコーン小隊 対 バジリスク小隊。


 野戦における試合の趨勢は決した。


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