第百二十八話 試合会場とルール
--皇宮
侍従が帝室の朝食の用意のため、足早に廊下を歩いていると、廊下の一角に四人のメイド達が集まって、頬を赤らめながら、何やらヒソヒソと話し合っていた。
侍従は、仕事をサボっているメイド達を叱る。
「お前達! 何をしている!?」
メイド達は、侍従に頭を下げて謝る。
「申し訳ありません」
侍従は、メイド達にサボっていた理由を尋ねる。
「仕事もせず、一体、何を話していたのだ?」
メイドの一人は口を開く。
「今朝方、夜明け頃にソフィア様に湯浴みの用意をするように申し付けられまして・・・」
「それで?」
メイドが続ける。
「皇太子殿下に一晩中、求められていたので、湯浴みがこの時間になってしまって申し訳ないと。・・・殿下から、一晩に六度も抱かれて愛され汗だくなので、湯浴みをしない訳にはいかないと・・・」
別のメイドは頬を赤らめて、恥じらいながら上目遣いに続ける。
「・・・私達は、まだ、その・・・殿方に抱かれたことがありませんので、ソフィア様が申されました、その・・・『殿方に抱かれる』というのが、具体的にどういうものかと・・・」
更に別のメイドも頬を赤らめて、モジモジと恥じらいながら続ける。
「『殿方に抱かれる』というのは、普通、一晩に一度か二度と伝え聞きまして。その・・・一晩に六度もソフィア様を抱かれる殿下は、一体、どれ程、御強いのかと・・・」
呆れた侍従は皇帝の私室に赴き、メイド達が話していたことをラインハルトとナナイに報告して、詫びる。
「申し訳ありません。私の教育が至らぬために」
頭を下げて謝罪する侍従を他所に、報告を聞いたラインハルトは笑い、ナナイも口元に手を当ててクスクスと笑う。
上機嫌でラインハルトは侍従に告げる。
「ははははは。良いではないか。メイド達も年頃の娘達だ。男女の閨事に興味があるのだろう。私は咎めるつもりは無い」
侍従は、深々と頭を下げる。
「恐れ入ります」
ラインハルトは、傍らのナナイに話し掛ける。
「・・・しかし、一晩に六回とは。ジークは、夜の方も盛んなようだな」
ナナイは、微笑みながら答える。
「ジークは、メイド達にもモテるようで・・・貴方に似たのですよ」
ラインハルトは笑顔で答える。
「ナナイ。ジークは、君の息子でもある。どうやら、私が考えていたよりも早く孫の顔が見れそうだ」
ナナイも笑顔で話す。
「まだ、二人の初夜が終わったばかりですよ。もぅ・・・気が早いんだから」
--士官学校
士官学校では、小隊対抗模擬戦トーナメントの会場建設が急ピッチで行われていた。
巨大なストーンゴーレムが演習場で休みなく建設作業を続けていた。
アレク達は草むらに座り、それらを眺めていた。
アルは口を開く。
「・・・なんか、凄いな」
アレクも口を開く。
「うん。攻城用の十二メートル級が、・・・何体居るんだ?」
ルイーゼが指で数える。
「・・・全部で十二体ね」
エルザは冗談を言う。
「あれだけ居たら、お城でも作れそうね」
ナディアは同意する。
「そうね」
トゥルムは立ち上がって会場全体を見回す。
「奥に見えるのが貴賓席だろう。我々が戦う試合会場は、四つあるようだな」
ドミトリーも追従する。
「そのようだな」
ナタリーは疑問を口にする。
「四つの試合会場って、全部違うみたいね」
アルは解説する。
「そうさ。『平野戦』と『屋内戦』、『障害物』と『塹壕戦』の四つかな」
アレク達が座って会場の建設工事を眺めていると、ジカイラとヒナがやって来る。
「お前達、もう会場の下見に来ているのか? 気が早いな」
アレクは苦笑いしながらジカイラに答える。
「そんなところです」
アレクはジカイラに尋ねる。
「中佐。今度のトーナメントは、四種類の戦場で戦うのですか?」
ジカイラは答える。
「そのとおりだ。二学年で十六個小隊だから、トーナメントで四回勝てば優勝だな」
ナタリーは尋ねる。
「大尉、トーナメントで魔法は使えるのですか?」
ヒナは答える。
「第一位階までならね」
ナタリーは悔しそうに口を開く。
「第一位階って・・・、そんな魔法しかダメなんですか?」
ヒナは笑顔で答える。
「貴女が優秀過ぎるのよ。・・・他の小隊は、そんなに高位階の魔法は使えないわ」
アルはナタリーを慰める。
「まぁまぁ、ナタリー。もし、ナタリーが試合の開幕で第六位階魔法の『地獄業火爆裂』をブチかましたら、試合にならないし、会場ごと吹き飛んじゃうだろ?」
ナタリーは悔しそうに答える。
「それはそうだけど・・・」
ジカイラもフォローする。
「ま、個人の魔法の強さを披露する場じゃなくて、陣地の旗を取り合う集団戦で、小隊の指揮や連携を披露する場だからな」
ナディアはヒナに尋ねる。
「召喚魔法は?」
ヒナは答える。
「召喚魔法も第一位階までよ」
ナディアも悔しそうに呟く。
「え~。それじゃ水の精霊か風の精霊くらいしか、召喚できないわね・・・」
アレクはジカイラに尋ねる。
「試合は、基本的に『寸止め』なんですよね?」
ジカイラは苦笑いしながら答える。
「いや、実践に近い形式だから、死なない程度に斬り付けても構わないぞ」
「おぉ!」
トゥルムは呟く。
「これは・・・気合いを入れなばな!」
ドミトリーも口を開く。
「皆で特訓するようだな」
アレク達は、トーナメントが実戦に近い形式と知り、盛り上がっていた。