第百二十七話 結婚初夜 ジークフリートとソフィア
--時間を少し戻した 結婚初夜。
ソフィアは湯浴みを済ませた後、自室で落ち着かずにいた。
ジークの使いの侍従が、いつ自分をジークの寝室に呼びに来るのか、心配で仕方がなかった。
帝国の慣例通りなら、皇帝や皇太子に妃が複数人いる場合、正妃から第二妃、第三妃と順番に夜の相手を務めることになる。
しかし、バレンシュテット帝国は一夫多妻制の男尊女卑社会であり、夜の相手を誰にするのかは、男の側が決める事であった。
普段は、ジークが自分の寝室で妃同士が鉢合わせしないように上手く采配し、妃達に『今夜の相手は誰々』と事前に伝えているが、初夜である今夜に限ってジークからの事前の連絡は無かった。
もし、万が一、ジークが慣例を無視して、最初であるはずのソフィアの順番を飛ばし、アストリッドやフェリシアを先に初夜の相手に呼ぶような事があったら、ソフィアの皇太子正妃としての立場は無くなり、面目丸潰れである。
下級貴族の子女でしかないメイド達にも笑われるだろうし、皇宮内にソフィアの居場所は無くなってしまう。
ソフィアは、バスローブ姿のままでベッドに腰掛けるが、落ち着かない。
ドアをノックする音の後、侍従の声がする。
「失礼致します。ソフィア様。皇太子殿下が寝室にお呼びです」
(来た!)
ソフィアが、待ちに待っていたジークの使いの侍従が、ソフィアを呼びに来た。
「判りました。直ぐ参ります」
平静を装って侍従に答えるが、ソフィアは声が上ずってしまう。
ソフィアは、ベッドから立ち上がって自分の部屋を出ると、侍従の後についていきジークの寝室に向かう。
侍従がジークの部屋のドアをノックして告げる。
「殿下。ソフィア様をお連れ致しました」
「入れ」
侍従はドアを開けると頭を下げ、ソフィアの入室を促す。
ソフィアがジークの部屋に入ると、ジークは既にベッドで横になって居た。
「来たか」
「はい」
ソフィアは、初夜の緊張と自分を呼んでくれた嬉しさから顔を紅潮させ、ベッドに横たわるジークの隣に腰掛ける。
ジークはベッドで上半身を起こすと、左手をソフィアの左肩に掛け、自分の膝の上に仰向けに寝かせるように抱き寄せ、キスする。
「んっ・・・んんっ・・・」
ジークは、普段と変わらなかった。
ソフィアは、ジークとの結婚初夜という状況と、ジークが初夜の相手に自分を選んでくれたという嬉しさから、顔は上せたように紅潮して胸も高鳴る。
ジークは尋ねる。
「・・・どうした? ソフィア?」
ソフィアは目に涙を浮かべながら答える。
「嬉しいのです。ジーク様が私を選んでくれて」
ジークは、微笑みながら答える。
「・・・当然だろう」
「他の妃が呼ばれたら、どうしようかと・・・」
「あらかじめ、伝えておくべきだったな。不安な思いをさせてすまなかった」
ジークは再びソフィアにキスすると、覆い被さるようにソフィアを抱き、耳元で囁く。
「ソフィア。・・・トラキアでの戦争に勝利して士官学校を飛び級で卒業し、お前を妃として娶ることができた」
ジークはソフィアの頬に両手で触れると、ソフィアの目線を自分の目線に合わせる。
ジークのエメラルドの瞳とソフィアの紅い瞳が見つめ合う。
「・・・お前は私のものだ。ソフィア」
ジークの言葉に、ソフィアは瞳を潤ませながら答える。
「・・・はい」
握り合う二人の左手の薬指には、結婚指輪が輝いていた。
この夜、ジークはソフィアを離さず、二人は一晩中愛し合った。
ジークがこの夜、結婚初夜の営みを終えた時には、東の空は明るくなり始めていた。
--翌日、早朝。
ソフィアは、自分の隣で眠るジークを起こさないように床から出るとバスローブを羽織り、眠っているジークにキスして自分の部屋に戻る。
部屋に戻ったソフィアは、上機嫌で呼び鈴を鳴らしてメイドを呼ぶ。
直ぐにメイドがソフィアの部屋を訪ねる。
「お呼びでしょうか?」
メイドからの問いにソフィアは答える。
「湯浴みの用意を」
メイドは返答する。
「畏まりました」
頭を下げるメイドに、ソフィアは上機嫌で『惚気自慢』を始める。
「ごめんなさいね。こんなに朝早くから。・・・昨夜は一晩中、ジーク様に求められ、抱かれていたから、湯浴みが今の時間になってしまったの・・・」
ソフィアのメイドに対する『惚気自慢』は、小一時間以上、続いていた。