第百二十六話 小隊対抗模擬戦トーナメント
アレク達が久々に士官学校に登校すると、入り口には『奉祝 皇太子殿下 御成婚』という横断幕と帝国旗が掲げられ、士官学校内は祝賀ムードで一杯であった。
--昼休み。
「はぁ~」
アレクは、教室の窓際の席に座りボーッと窓の外を眺めながら、ため息をつく。
「どうしたの? ため息なんかついちゃって」
アレクが声のした方を向くと、声の主であるナディアがアレクの元にやってくる。
ナディアは、前の席に座ってアレクの方を向くと、話し掛ける。
「青春のため息の原因を当ててあげようか?」
ナディアからの問いにアレクは力無く答える。
「んん?」
ナディアが悪戯っぽくアレクに告げる。
「アレクの『憧れの美人の年上お姉さん』が皇太子殿下と結婚しちゃったんで、落ち込んでいるんでしょ?」
「いや・・・そんなんじゃ・・・」
アレクは否定したが、ナディアの言葉は図星であった。
兄のジークが三人の妃と結婚した。
正妃はソフィア、第二妃はアストリッド、第三妃はアレクが憧れるフェリシアであった。
ジークと結婚後のフェリシアは、アレクの『義理のお姉さん』という事になるのだが、アレクとしてはフェリシアの幸せを願う一方で、自分以外の男のものになってしまうという悔しさもあり、複雑な心境であった。
頭では理解できても、心が付いていかない。
ナディアはそう言うと、ボーッとしたままのアレクの頬に両手で触れながら、耳元に顔を近づけて囁く。
「アレク。お姉さんが慰めてあげようか?」
次の瞬間、エルザの叫び声が聞こえる。
「ああっ! ナディア、ズルい! 抜け駆けしてる!」
そう叫ぶと、エルザはアレクとナディアの元に駆け寄って来て、ナディアから取り返す様にボーッとしたままのアレクの頭を自分の胸に抱く。
「アレクは、エルザちゃんが良いんだもんね~」
抱き締められたアレクは、エルザの胸の谷間に顔をうずめる。
「・・・」
アレクが何かを呟くが、エルザの胸の谷間に顔をうずめているため、周囲には聞き取れなかった。
エルザは聞き返す。
「ん? どうしたの? アレク?」
アレクは、エルザの胸の谷間から顔を起こして呟く。
「く・・・苦しい」
アレク達三人のところに、アルや他の小隊メンバー達がやって来る。
アルは呆れたようにアレクに告げる。
「・・・アレク。昼間っから乳繰り合ってるのかよ?」
アルの言葉にアレクは苦笑いする。
「そうじゃないよ」
「まぁ、いい。・・・これを見ろよ!」
アルは一枚の羊皮紙を取り出すと、小隊の皆に見せる。
小隊の仲間達は羊皮紙に掛かれた見出しを読み上げる。
「皇太子殿下 御成婚記念 小隊対抗 模擬戦トーナメント?」
アルは説明し始める。
「そうさ。この度、皇太子殿下の御成婚を記念して、この士官学校で小隊対抗の模擬戦トーナメント戦が開かれるんだ! 『天覧試合』ってことだから、皇帝陛下や皇妃殿下、皇太子殿下も見に来るぞ!」
アレクの顔が真剣な表情になる。
(父上と母上が・・・。兄上も見に来るのか・・・)
トゥルムは口を開く。
「皇帝陛下の御前で武芸を披露するとは! 我が一族の武名を上げる好機だな!」
ドミトリーも口を開く。
「うむ。拙僧も修行の成果を披露したいものだ!」
ナディアはアレクを冷やかす。
「皇太子殿下も御覧になるなら、御妃様達も来るんじゃない? ・・・アレクの『憧れの美人の年上お姉さん』も来るかもよ?」
ルイーゼは可愛らしくアレクに告げる。
「皇帝陛下や皇太子殿下、それに『憧れの美人の年上お姉さん』の前で無様に負ける訳にはいかないわよ~。頑張ってカッコいいところを見せるしかないわね。アレク」
ナタリーも続く。
「そうよ! カッコいいところを見せなきゃ!」
苦笑いしたアレクは、皆の前でガッツポーズを取る。
「良し! 頑張るぞ! カッコいいところを見せないとな!」
女の子達は互いに顔を見合わせると、アレクをその気にさせたことに『してやったり』と口元に手を当ててクスクスと笑う。
--放課後。
一日の授業が終わり小腹が空いたアレクは、小隊の仲間達と補給処に買い出しに寄る。
補給処には、ルドルフが居た。
アルはルドルフに話し掛ける。
「お? ルドルフじゃね~か。お前も買い出しか?」
ルドルフは答える。
「まぁな」
ルドルフが続ける。
「それより、小隊対抗模擬戦トーナメントの件は聞いたか?」
アルは答える。
「聞いた、聞いた」
ルドルフは真剣な顔でアレク達に告げる。
「今度の小隊対抗模擬戦トーナメント、オレは優勝を狙うつもりだ」
ルドルフの言葉にその場に居る皆が驚く。
アルはルドルフを冷やかす。
「おおっ!? 帝国騎士十字章に輝くオレ達がいるのに、優勝狙い宣言とは、大きく出たね~」
ルドルフはルイーゼの方を見て告げる。
「・・・オレはこのトーナメントで優勝して名を上げ、父を探すつもりだ」
ルイーゼはルドルフに尋ねる。
「お父さんを探しているの?」
ルドルフは答える。
「ああ。母は、父の名前を明かさず、父は『至高にして最強の騎士』とだけ教えてくれた。天覧試合のトーナメントでオレが優勝したら、名が上がって父を探しやすくなるだろ?」
ルドルフの言葉を聞いたルイーゼは、こめかみに指を当てると、少し考える。
(『至高にして最強の騎士』・・・? どこかで聞いた事があるような・・・?)
ルイーゼは少しの間考えたが、思い出せなかった。
ルイーゼはルドルフに尋ねる。
「お父さんを探して、どうするの?」
ルドルフは答える。
「まず、殴り倒してやりたいな。・・・母は、働きながらオレを育て苦労していた。父が母とオレを捨てた理由が知りたい」
ルドルフは、アレクの胸に拳を当てて告げる。
「天覧試合で勝負だ。優勝は、グリフォン小隊が頂く」
アレクもルドルフの胸に拳を当てて返す。
「ふふ。最強の座はオレ達、ユニコーン小隊が頂く。勝負だな」