第百二十五話 皇太子ジークフリートの結婚
ラインハルトからの帰還命令によりアレク達を乗せた飛行空母ユニコーン・ゼロは、キャスパーシティから戻り士官学校併設の飛行場に着陸、アレク達は飛行空母を降りて自分達の寮に帰った。
寮に着いたアレク達は、食堂に集まる。
すっかり回復したエルザは不満を口にする。
「もう少し飛行空母に居たかったなぁ~」
アルは口を開く。
「無事、勅命は果たしたし、学校に戻るしかないだろ」
席に座ったアレクは、暗い顔で俯いていた。
ナディアはアレクに声を掛ける。
「アレク、どうしたの? そんな、暗い顔で?」
「中佐から聞いたんだけど・・・」
アレクは、ジカイラから事の顛末を聞いており、その事を食堂にいる皆に話す。
エリシス伯爵は、禁呪『隕石落とし』を用いて、本拠地のあるカルロフカ市街ごとトラキア解放戦線を消滅させた。
アレクがその事を皆に話すと、食堂の空気が重いものになる。
ドミトリーは口を開く。
「極左のテロ組織ごと、十万のトラキア人を消滅させるとは・・・。ちと、やり過ぎではないのか?」
ルイーゼは口を開く。
「でも、これで帝国で爆弾テロを起こそうなんて連中は、居なくなったから良かったんじゃない?」
ナディアも同意する。
「そうよ! ああいう連中は、倍返しにしてやらないと懲りないわ」
ナタリーもナディアの意見に頷く。
アルは、暗い顔のアレクの肩をポンを叩くと、口を開く。
「ま、オレ達が十万人のトラキア人を殺した訳じゃない。アレク、考え過ぎだよ」
トゥルムもアルに続く。
「そうだぞ、隊長。今回は帝国とトラキア解放戦線というテロ組織との戦争だったのだ。カルロフカの人々は帝国に恭順せずに反旗を翻し、トラキア解放戦線というテロ組織と手を組んでいたのだ。『エリシス伯爵は、テロ組織を殲滅した』。・・・それだけだ。・・・戦争に犠牲は付き物だ。綺麗事だけでは、帝国も、故郷も、家族も、愛する女も守れない。軍人ならば、覚悟が必要だ」
アレクの表情が少し明るくなる。
「『軍人としての覚悟』か。そういうものか・・・」
落ち込んでいるアレクを励まそうとして、エルザは軽口を叩く。
「私は、もう一度、死なない程度に怪我しても良いけどね~。また、アレクに抱き締めて貰うから! 『エルザ! エルザァ~!』って」
エルザに、解放戦線のアジトで自爆攻撃にあって気を失ったエルザを助け出した時の口調を真似され、気恥ずかしさからアレクの顔が赤くなる。
真っ赤な顔でアレクは文句を言う。
「エルザ、冷やかすなよ~! こっちは必死だったんだぞ?」
エルザは、ニンマリと笑うとテーブルに両肘を着いて顎を乗せ、照れながらアレクに向かって告げる。
「アレク。あの時、助けてくれて、ありがとね」
元気なエルザの笑顔を見た事で、アレクの自責と後悔の念は拭い去られていった。
--皇太子ジークフリートの結婚式 当日
帝国竜騎兵団、帝国機甲兵団、帝国不死兵団、帝国魔界兵団、帝国海軍の五軍の儀仗兵が皇宮の正門から建物入り口まで整列している。
皇宮から帝都の大通りに至るまで、一定間隔で誇らしげに帝国旗が掲げられている。
晴天の澄んだ紺碧の空のもと、帝国貴族を乗せた多数の馬車が皇宮の正門を潜る。
皇帝であるラインハルトと皇妃ナナイはもちろんのこと、帝国四魔将、バレンシュテット帝国の皇帝への拝謁、謁見を許された高位の貴族達と帝国政府の高官達が皇宮の玉座の間に参集し、列席する。
近隣の友好国の大使たちも列席する。
厳粛とした雰囲気の中、皇太子ジークフリートと三人の花嫁達ソフィア、アストリッド、フェリシアの結婚式が始まる。
軍楽隊がファンファーレを演奏する中、純白のウェディングドレスを纏う三人の花嫁達がブーケを持ち、玉座の間の中央通路をゆっくりと歩く。
ソフィアは祖父であるアキックス伯爵が、アストリッドは父親のヒマジン伯爵がエスコートし、縁者のいないフェリシアは、ハリッシュが代理でエスコートしていた。
三人の花嫁達のウェディングドレスの長い裾を持つ『ブライズメイド』には、ジークとアレクの下の妹達がやっている。
花嫁達の美しさに参列者の列から嘆息が漏れる。
花嫁達の列は、玉座の前に立つ大司教の前まで歩みを進めると、皇太子であるジークの前で止まる。
ジークと三人の花嫁達は、並んで大司教の前に立つ。
結婚の宣誓が始まる。
修道女がお盆の上に結婚指輪を乗せて、ジークと三人の花嫁達の前に歩み出る。
ジークと三人の花嫁達は、結婚指輪を左手の薬指にはめる。
ジークは、花嫁達のヴェールを上げ、順にキスしていく。
大きな拍手と歓声が玉座の間に響き渡る。
「「皇太子万歳!!」」
「「皇太子万歳!!」」
「「帝国万歳!!」」
「「帝国万歳!!」」
ジークと三人の花嫁達の結婚式は、滞りなく執り行われた。