第百二十一話 帰還と医務室
アレクは、気を失って毛布に横たわるエルザの傍に座り、エルザの様子を窺う。
トゥルムがしたように、アレクもエルザの口元に手をかざす。
エルザの吐息が手に当たり、呼吸している事が判る。
アレクは、飛空艇の非常用備品箱から毛布を取り出してくると、エルザの身体の上に掛ける。
他のメンバーの傷の手当てを終えたドミトリーがエルザの様子を見に来る。
「・・・息苦しそうだな。鎧を外してやると良い。拙僧は修行中の身、御婦人の胸に触れる訳にはいかんのだ」
アレクは、ドミトリーの言葉に従ってエルザが身に付けているビキニアーマーとブラを外す。
「んっ・・・」
意識の無いエルザが少し体を動かした。
エルザの可愛らしい猫のような獣耳がヒコヒコ動く。
再びドミトリーは、エルザの様子を見る。
「だいぶ呼吸がラクになったようだ。隊長、引き続き介抱を頼む」
「・・・判った」
アレクは、タオルを水で濡らして絞り、エルザの顔の汚れを拭く。
アレクは、エルザの介抱をしながら自分を責めていた。
自分の指揮で、危うく小隊の仲間が死ぬところであった。
敵のアジトなのだから、慎重に行くべきではなかったか。
もっと上手くできたのではないか。
自責と後悔の念がアレクの頭をよぎる。
アルとトゥルムがアレクの元にやって来る。
アルはアレクに尋ねる。
「どうしたんだ? そんな深刻な顔して?」
アレクは俯きながら答える。
「・・・危うくエルザを死なせるところだった。もっと、慎重に行くべきじゃなかったのかって思って」
トゥルムも口を開く。
「隊長。前線の指揮で『どれが正解か?』なんて、気にしてもしょうがない。正解なんて、誰にも判りはしない。状況に合わせて、最適なものを選択するしかない。隊長の指揮は、最適だったと思うぞ」
アルもトゥルムに追従する。
「トゥルムの言うとおりだぜ。オレもアレクの指揮は最適だったと思う。・・・アレクの指示通り、あの時、盾で爆風を防いでいなければ、今頃は爆発した爆弾の破片で、全員、血まみれで死んでいたかもしれないんだぞ?」
アレクは力無く答える。
「・・・そうなのかな」
小隊の女の子達も落ち込んでいるアレクの元にやって来る。
ルイーゼはアレクを励ます。
「・・・アレク、気に病むことは無いわ」
ナディアも追従する。
「そうよ。エルザは、貴方を恨んだりしないわよ? 今だって、本人の希望通り、アレクの隣で寝ているんだし」
ナタリーも追従する。
「アレク、元気出して」
女の子達に慰めの言葉を掛けられ、アレクはますます自己嫌悪に陥る。
と、同時にエルザをこんな目に合わせたトラキア解放戦線に対して、沸々と怒りが湧いてくる。
アレクは呟く。
「クソッ!!」
アレクは立ち上がって、捕まえたトラキア解放戦線の者達のところへ歩いて行くと、男の一人を蹴り倒し、何度も踏みつけながら叫ぶ。
「何なんだ、お前らは! 死にたきゃ、一人で勝手に首でも括れ! 自爆なんてしやがって!」
驚いたアルが、後ろから両腕でアレクを羽交い絞めにして制止する。
「アレク! よせ! やめろって! こいつらを蹴ったって、しょうがないだろ!」
アレクに頭を踏みつけられたまま男が口を開く。
「・・・ガキが。・・・帝国に踏みにじられたトラキア人の屈辱がお前に判るものか」
「クッ!」
アレクは、アルに羽交い絞めにされたまま、男を睨み付ける。
ほどなく、ジカイラとヒナの乗る揚陸艇がアレク達の元へ飛んでくる。
揚陸艇は着陸すると跳ね橋を降ろし、中からジカイラとヒナが降りてくる。
ジカイラは口を開く。
「すまない。遅くなった。お前ら、無事か?」
アレクは答える。
「中佐。全員、無傷とは言えませんが、解放戦線の者達は逮捕しました」
ジカイラは、毛布に横たわるエルザを見て、察したようであった。
「・・・そうか」
ジカイラは、揚陸艇の跳ね橋にいる士官に指示を出す。
「捕虜と負傷者の回収を急げ。出来次第、帰還する」
衛生兵達によって、担架でエルザが揚陸艇に乗せられていく。
アレクはその様子を見守っていた。
捕虜を乗せた揚陸艇が飛行空母を目指して上昇していく。
アレク達は、飛空艇に乗り込むと、飛行空母ユニコーン・ゼロに向けて、帰還の途に着いた。
--飛行空母ユニコーン・ゼロ 医務室
エルザは、飛行空母の医務室でベッドに寝かされていた。
ベッドに眠るエルザの傍にアレクが椅子に座って付き添う。
アレクはエルザの寝顔を眺める。
『エルザはこのまま目覚めないのではないか?』といった悪い考えがアレクの頭をよぎる。
ベッドの中で寝返りをうったエルザが目覚める。
エルザは、パッチリと目を開いて周囲を見回すと、アレクが居る事に気が付く。
「え!? ここドコ? ・・・アレク?」
エルザが目覚めた事にアレクは安心する。
「エルザ! 良かった! 目が覚めたんだね!」
アレクは、エルザに事の一部始終を話す。
エルザは口を開く。
「そうなんだ・・・。私、自爆攻撃で気絶したんだ」
エルザは、自分の身体に掛けられている毛布をめくりながら上半身を起こすと、自分の身体を見て驚く。
「ああっ! なんで、私、裸なの!?」
エルザは、アレクの方を横目で見ながら口を開く。
「ア~レ~ク~」
「んん?」
エルザは、悪戯っぽくアレクに告げる。
「アレク、正直に言いなさい。・・・裸の私にえっちなイタズラしたでしょ?」
アレクは、焦りながら否定する。
「いや、してないよ」
エルザは続ける。
「私の胸やお尻を触ったり・・・」
エルザからの追及にアレクは必死に否定する。
「してない! してない!」
エルザは、照れ臭そうに告げる。
「・・・別に隠さなくていいのよ。触っても。・・・アレクなら、許してあげる」
アレクは、広げた両手を振って必死に否定する。
「だから、してないって!」
エルザは、必死に否定するアレクの顔を下から覗き込むように見上げると、アレクの手を掴んで自分の胸を触らせる。
「どう? 触るの久しぶりでしょ?」
「エルザ・・・」