第百十九話 アジト襲撃
アレク達ユニコーン小隊は、編隊を組んでキャスパーシティの上空を飛び、郊外にある解放戦線のアジトとみられる農家を目指す。
ルイーゼが伝声管でアレクに伝える。
「もうすぐ目標の農家よ!!」
アレク達の目の前に、小高い丘の上に建つ農家の廃屋と石造りのサイロが見えてくる。
アレクが指示を出す。
「目標の周囲は、開けた草原だ。全機、目標手前の草原に着陸! 農家に突入する!!」
ルイーゼが手旗信号で僚機に伝える。
アレク達ユニコーン小隊は、滑空しながら綺麗に着陸すると、飛空艇から飛び降りて農家の廃屋前に小走りで集まり、隊列を整え陣形を組む。
前衛のアレクとアルが、窓や玄関から農家の廃屋の中を覗き込み、建物の中の様子を伺う。
アレクは、慎重に様子を伺う。
「人の気配がしない・・・? 解放戦線の者達は、何処だ??」
エルザも農家の中を覗き込んで、ぼやく。
「・・・なぁんだ。ハズレかぁ~」
トゥルムも農家の中を覗き、口を開く。
「・・・空き家というより、長い間、人が住んでいない廃屋だな」
ルイーゼはアレクとアルに声を掛ける。
「アレク、アル。・・・これ見て。最近、付けられたものよ」
斥候系スキルを持つルイーゼが指差す地面には、複数の人の足跡があった。
ルイーゼが地面の足跡をたどると、足跡は農家の玄関から、廃屋の近くに建つ農業用サイロの入り口まで続いていた。
サイロを睨みながらアレクは呟く。
「あれは・・・農業用サイロ?」
ナタリーは答える。
「そうよ。牧草とか、保存しておく建物ね」
ナディアは冗談を言う。
「敵も居なかったことだし。・・・みんなで、干し草のベッドでお昼寝しましょうか」
エルザも同意する。
「それ、名案! アレクの隣は、私の場所ね!」
ドミトリーはアレクの傍にやって来て尋ねる。
「どうした、隊長? 農家に敵は居なかったのか? ハズレでも、信号弾を上げなければならない」
アレクは、ルイーゼが指し示した地面を調べながら、答える。
「・・・ドミトリー。最近、付けられた人の足跡が、農家からあのサイロに続いているんだ」
アレクの言葉を聞いたアルも口を開く。
「そういえば、この農家はあちこちボロボロなのに、あのサイロはドアも新しいぞ? ・・・なんか怪しいな」
アレクはアルの意見に同意する。
「・・・オレも同意見だ。信号弾を上げるのは、向こうのサイロを調べてからにしよう」
ルイーゼはサイロの周囲を一周して調べる。
「石造りで窓は無いし、通気口は屋根の近くね。・・・外から中の様子は判らないわ」
アレクは口を開く。
「・・・中に入るしかないな」
アレク達ユニコーン小隊は、サイロの入り口前に集まり、再び陣形を組む。
アレクはルイーゼに指示を出す。
「ルイーゼ。ドアを開錠して」
「判ったわ」
ルイーゼは屈んでサイロのドアの鍵穴を調べ、鍵を開ける。
「空いたわ。良いわよ」
アレクは号令を掛ける。
「行くぞ!」
ルイーゼはサイロのドアを開け、アレク達は一斉にサイロの中に突入する。
突入したアレク達の前には、解放戦線の男達が居た。
アレクは叫ぶ。
「バレンシュテット帝国軍だ! 皇帝陛下の命により、お前達、全員を逮捕する! 大人しく武器を捨てて、投降しろ!」
アレクの前に居る男達が叫ぶ。
「帝国軍!?」
「アジトがバレたのか!?」
「クソッ!」
男達は、こん棒や短剣を手に取ると、アレク達に向けて構える。
サイロの中に入った小隊に、アレクは号令を掛ける。
「Präsentiert das Schild!!」
(盾を構えろ!!)
ユニコーン小隊の前衛四人アレク、アル、トゥルム、エルザが横一列横隊で並び、盾を構える。
戦闘態勢を取るアレク達に解放戦線の男達は怯む。
アレクは続ける。
「Hinein!!」
(突っ込め!!)
アレク達ユニコーン小隊は、盾を構えたまま、男達に向かって突撃する。
小隊の前衛四人は、構えた盾で男達に激突する。
「なっ!?」
「グハッ!」
アレク達に盾でどつかれた男達は、嗚咽を漏らす。
アレクは、更に号令を掛ける。
「Attacke!」
(攻撃!)
ユニコーン小隊の前衛四人は、一斉に盾で男達を押し返して男達の体勢を崩すと、武器で攻撃する。
アレクとエルザは、次々と目の前の男の足を剣で斬り付け、アルとトゥルムは、解放戦線の男の太腿を斧槍と三叉槍で突き刺していく。
「ぐぁああああ!」
「うぁあああ!」
攻撃された解放戦線の男達は、悲鳴を上げ、床に倒れる。
悲鳴と騒音を聞きつけ、サイロの二階から新たな解放戦線の男が現れる。
「敵だ! 帝国軍の襲撃だぁ!」
ルイーゼが弓を番えて叫んだ男の肩を射抜くと、男は悲鳴を上げながら肩を押さえながら蹲る。
アレクは号令を掛ける。
「行くぞ!」
「おおっ!」
ユニコーン小隊の前衛四人は、サイロの二階へ上がる階段を駆け上る。
ユニコーン小隊の前衛四人アレク、アル、トゥルム、エルザが階段を登り切ると、二階の倉庫区画には、火のついた松明を持った男が立っていた。
男の傍らには、蓋を開けて開封した状態の爆弾があった。
アレク達の姿を見た男は、アレク達を見据えたまま目を見開いて叫ぶ。
「帝国に死を! トラキアに栄光あれ!」
アレクは、松明を持った男と目が合う。
それは自らの死を受け入れた者の目であった。
アレクは、必死に叫ぶ。
「盾だ! 全員、防御態勢を取れ!」
松明を持った男が松明の先を爆弾の中に突っ込むと、轟音と共に爆弾が爆発する。