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第百十一話 ひったくりの正体

 飛行空母ユニコーン・ゼロは、夕刻、州都キャスパーシティ上空に到着した。


 艦橋でジカイラはエリシスに話し掛ける。


「伯爵。キャスパーシティ上空に到着したようです」


 エリシスは笑顔で答える。


「もう、夕方ね。・・・中佐、解放戦線の捜索は、明日からにしましょ」


「了解しました」


 エリシスの一声で『トラキア解放戦線』のアジト捜索開始は翌日からとして、この日は、自由行動となった。


 ユニコーン、グリフォン、セイレーン、フェンリルの各小隊の面々の他、ジカイラとヒナ、エリシスとリリーも、それぞれ、夕刻の州都キャスパーシティに繰り出した。






 揚陸艇で街に降りたアレク達は、街の大通りを歩いていた。


 エルザは皆に尋ねる。


「みんな、晩御飯、何食べる~?」


 アルは答える。


「・・・そういえば、この街の名物って、羊料理だっけ?」


 ナタリーは口を開く。


「そうよ! みんなで食べに行きましょ!」


 ナディアは注文を付ける。


「・・・持ち込みができる店ね。・・・私、ベジタリアンだし」


 トゥルムも同意する。


「うむ。私も魚が持ち込みできる店が良い」


 小隊で意見を出し合った結果、『持ち込みができる庶民的な羊料理店』で意見がまとまり、皆でそれらしい店を探し始める。


 




「きゃあっ!」


 悲鳴を上げたのはナタリーであった。


 小汚い浮浪者のような小男が、ナタリーのバッグをひったくろうとしたが、ナタリーはバッグの紐に手首を通していたため、奪い取ることができず、ナタリーは男が奪おうとしたバッグの紐で手首を引っ張られていた。


「痛い!」


 ナタリーの顔が苦痛に歪む。

 

「テメェ! 何しやがる!」


 ナタリーの傍らに居たアルは、怒鳴りながら男の顔を殴りつける。


「盗賊!?」


 すかさずアレクもアルに加勢し、男に背中に蹴りを入れる。


 男は、アルに殴られてもアレクに蹴られても怯まずにナタリーのバッグを奪って逃げようとする。


「オリャアアア!」


 ドミトリーの旋風脚が男に腹に炸裂する。


 ドミトリーは、手足の短いドワーフ特有の樽のような体系であったが、開脚百八十度の旋風脚は、たゆまぬ修練の賜物であった。


「くそっ!」


 男は、掴んでいたナタリーのバッグを手放すと、何も盗らずに逃げようとする。


「ウォオオオオ!」


 トゥルムの丸太のような腕によるラリアートが、逃げようとした男の首を捉えると、男は後ろに吹き飛び、地面に背中を打ちつける。 


 男は、よろよろと起き上がると、近くに居たエルザの腰に抱き付いてしがみつく。


 男に腰に抱き付かれたエルザは、猫のような獣耳と尻尾の毛を逆立たせ涙目で悲鳴を上げる。


「ぎぃやぁぁぁぁああ! 痴漢(チカン)ー!」


 エルザは涙目のまま、両手の拳で必死に男の顔を殴り付ける。


 手甲を付けたエルザの両手の拳が、右、左、右、左、右、左と鈍い音を立てて男の顔面に炸裂するが、男はしがみついたエルザの腰から、なかなか離れようとしない。


「しつこいわね!」


「離れなさいよ!」


 ルイーゼとナディアの二人も、エルザに加勢して男の背中に蹴りを繰り返す。


 体格の良いアルとトゥルムの二人が、後ろから男の両肩を掴んでエルザから男を引き剥がす。


 次の瞬間、ルイーゼの飛び膝蹴りが男の顔面に炸裂する。


 男は、鼻が潰れて鼻血を噴き出しながら白目を剥いて地面に倒れる。


 ナタリーは、他の女の子三人に声を掛ける。


「やったね!」


 ナタリーの声を合図に、小隊の女の子四人は示し合わせたように、それぞれ右手の親指を立てて見せる。


 ルイーゼの飛び膝蹴りを食らって、地面にうつ伏せでノビている男を見下しながらアルは呟く。


「・・・何なんだ? コイツ?」


 アレクも怪訝な顔をする。


「盗賊・・・だろ?」


 エルザは口を開く。


痴漢(チカン)よ! 痴漢(チカン)!」


 ナディアも口を開く。


「女の敵よ! 絶対、許さないんだから!」


 エルザが続ける。


「こんな痴漢は、こうしてやるわ!」


 そう言うとエルザは、うつ伏せでノビている男のズボンとパンツを足首まで、ずり下げる。


 むき出しになった男の尻を見たアレク達は驚く。


「ええっ!?」


「何これ!?」


「ぷぷっ!」


獣人(ビーストマン)専門の男娼ってこと?」


 男の尻には刺青のような文字で次のように描かれていた。


獣人(ビーストマン) 専用>






 ジカイラとヒナが大通りを歩いていると、大通りの真ん中に人だかりがある事に気が付く。


 エルザの叫び声を聞いた人達が集まって、人だかりを作っていたのだった。


 ジカイラとヒナの二人は、人だかりの輪の中にアレク達が居るのを見つけ、輪の中に入って来る。


 ジカイラはアレク達に尋ねる。


「お前ら、どうしたんだ? 何かあったのか?」


 アレクはジカイラに答える。


「中佐、盗賊です」


 エルザはジカイラに答える。


痴漢(チカン)ですよ!」


 ジカイラは、呆れたように地面にうつ伏せに倒れている男を指さして聞き返す。


「・・・この地面に転がっている小男がか?」


 アレクは答える。


「はい」


 ジカイラは呟きながら、尻丸出しでうつ伏せに倒れている男を足のつま先で仰向けにひっくり返す。


 男の顔が顕になる。


 オカッパ頭、瓶底眼鏡(びんぞこめがね)、出っ歯で小柄のネズミのような、神経質そうな小男。


 ジカイラとヒナは、その顔に見覚えがあった。


「・・・キャスパー!?」


 ジカイラは驚きを口にする。


「生きていたのか?」


 ナタリーのバッグを盗もうとした、小汚い浮浪者のような小男は、十七年前の革命戦役の際に革命政府に味方した咎で廃嫡されて家から追い出され、開拓民としても食い詰めた初代キャスパー・ヨーイチ元男爵であった。


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