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第百一話 士官学校の英雄、爆弾テロ

--翌朝。 


 アレク達は、久々に士官学校へ行く。


 アレクは、トラキアの戦場で命のやり取りをしてきた後だけに、士官学校の教室での授業は退屈に感じる。


 しかし、勉強しないと試験で良い点数が取れず進級、卒業できないため、『ルイーゼのために頑張る』と考えて授業で聞いた内容を羊皮紙に書き留める。


 休み時間にアレクがアルと二人で廊下を歩いていると、学校内のあちらこちら、至る所で数人の女の子達が遠巻きに二人をチラチラと見て、何やら話し合っていた。


 女の子達の様子をアレクが訝しんでアルに尋ねる。


「アル。・・・なんか、オレ・・・可笑しいところがあるか? さっきから、女の子達がチラチラとオレを見て、ひそひそと何か話しているみたいなんだけど・・・」


 アルは、得意気にアレクに教える。


「お前、鈍いなぁ~。オレ達は、先の皇太子殿下の親征に従軍して鼠人(スケーブン)の本拠地を叩き潰し、皇帝陛下から直接、帝国騎士(ライヒス・リッター)十字章(・クロス)を授与された『英雄』だぞ! 『英雄』! 一躍、学園の有名人ってこと! 女の子達が騒ぐのも当然さ! お前の制服の胸にも、オレのと同じ、金色に輝く帝国騎士(ライヒス・リッター)十字章(・クロス)があるだろう? 胸を張れ! 胸を!」


 そう言うと、アルは鼻歌交じりに上機嫌で歩き出す。 


「そうなんだ・・・」


 実際にアルの言葉は正しかった。





 アレクは、昼休みに知らない女の子から屋上に呼び出される。


 平民組フェンリル小隊の僧侶の女の子エマであった。


 エマはアレクの前に来ると、緊張した面持ちで頬を赤らめ、両手でアレクにリボンで結んだ小袋を差し出す。


「これ、私が作ったんです! 良かったら召し上がって下さい!」


 アレクは、エマが差し出してきた小袋を受け取る。


「ありがとう」


 更にエマは、アレクに手紙を差し出す。


「あと、これ。私の気持ちです! 読んで下さい!」


 アレクは、エマが差し出してきた手紙を受け取る。


「あ、ありがとう・・・」


 アレクに手紙を渡すと、エマは小走りでその場から立ち去って行った。



 


 アレクが教室に戻ると、アルが話し掛けてくる。


「おっ? それ、女の子からのプレゼントか?」


 アレクは正直に答える。


「うん。クッキーと手紙だな」


 アルはニヤけながら、アレクに話す。


「実は、オレもさっき、女の子から貰ったんだよね~」


 そう言ってアルは、女の子から貰った一口サイズのチョコレートケーキをアレクに見せると、自分の口に運んで食べ始める。


 アルは軽口を叩く。


「ん~。旨い。『スクールカースト』最上級になった特権だな!」


 アレクはアルに尋ねる。


「『スクールカースト』って?」


 アルは、したり顔で語る。


「知らないのか? 『スクールカースト』ってのは『学校内での立場、立ち位置』のことさ。今まで最上位だった皇太子殿下は、飛び級で卒業しちまったからな。今は、この金色に輝く帝国騎士(ライヒス・リッター)十字章(・クロス)を授与されたオレ達が最上位ってワケ!」


 アルの言葉にアレクは感心する。


「なるほどなぁ・・・」


 ユニコーン小隊のメンバー全員が同様であったが、蜥蜴人(リザードマン)のトゥルムとドワーフのドミトリーは、女の子達から恋愛対象外とされているようで、その分、女の子達の興味と関心は、ナナイ似の女の子のような美形のアレクと、ジカイラ似の男らしいイケメンのアルに集中していた。


 ユニコーン小隊の女の子達がアレクとアルの元にやって来る。


 エルザは口を開く。


「おやおや~? お二人さん、随分と女の子達にモテているようですね~」


 アルは満面の笑みでエルザに答える。


「まぁな!」


 ナタリーは、少し拗ねたようにアルに告げる。


「アル、浮気したらダメよ」


 アルは、舞台俳優のような身振り手振りで右手でナタリーの手を取ると、その手の甲にキスする。


「このアルフォンス・オブストラクト・ジカイラ・ジュニアが心に決めているのは、貴女だけです。ナタリー嬢」


 アルの言葉と行動にナタリーは照れて、みるみる顔が赤くなる。


 ルイーゼは、椅子に座るアレクの首に、後ろから両腕を回して自分の胸に抱き締めると、口を開く。


「私は、アレクが女の子達にモテていても全然平気よ」


 ルイーゼには確信があった。


 『私達は、互いに愛し合っている』と。






-- 一週間後。


 バレンシュテット帝国政府により、皇太子ジークフリートと三人の妃の結婚式を一ヶ月後に執り行う事が発表された。


 同日深夜、帝都ハーヴェルベルクの繁華街の一角にある酒場が爆発。


 繁華街での爆発であり、死傷者が多数発生した。





-- 翌朝。


 皇宮に繁華街の酒場が爆発した事件の犯行声明の文書が届けられる。


『トラキア解放戦線』を名乗る組織による自爆テロであった。


 トラキア併合の取り消しとトラキアからの帝国軍の撤退を要求する文書であり、皇太子ジークフリートと三人の妃の結婚式に対する爆破予告であった。


 玉座の間で報告を受けた皇帝ラインハルトは激怒する。


「ふざけた真似をしおって!」 


 ラインハルトは軍人であった。


 正々堂々と軍人同士が戦場で戦って犠牲が出るのならともかく、都市部で非武装の一般市民を狙った卑劣なテロは許せなかった。


 また、ラインハルトは、奴隷貿易や麻薬貿易、亜人差別といった社会的弱者を犠牲にする『社会悪』を極端に毛嫌いしており、目の敵にしていた。


 玉座の間には、ラインハルトとナナイの他、ジークと三人の妃ソフィア、アストリッド、フェリシアが居た。


 フェリシアは謝罪して頭を下げる。


「・・・申し訳ありません」


 怒りに満ちたラインハルトの目がトラキア人の王族であるフェリシアを睨む。


 ラインハルトが放つ殺気と凍てつくアイスブルーの鋭い眼光にフェリシアは怯える。


 ジークは、ラインハルトの視線を遮るようにフェリシアの傍に歩いて、フェリシアに告げる。


「貴女が謝罪する必要は無い。テロ組織が行ったことだ」


 寵愛する長男のジークがフェリシアを庇った事を見て、ラインハルトは視線を他へ移して侍従に告げる。


「ジカイラ中佐とエリシス伯爵を呼べ」


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