第九十八話 凱旋式
--翌朝、凱旋式当日
帝国辺境派遣軍の戦勝と帰還、革命戦役以来、十七年ぶりの若き英雄の誕生により、帝都はお祭りムード一色となっていた。
早朝から帝都の至るところで凱旋式の準備が進められていた。
大通りには一定の間隔で帝国旗が掲げられ、通りに面した店では、軒先でビアガーデンの席や露店の準備にせわしなく取り掛かっていた。
戦勝の英雄となったジークとソフィアの肖像画を掲げる店もあった。
『凱旋式』の開始時刻になる。
帝国辺境派遣軍は、凱旋パレードのため帝都ハーヴェルベルク郊外にいた。
ジーク達は、四人乗りのパレード用オープン・キャリッジ型の馬車に乗る。
馬車の車列の一台目には、皇太子のジーク、ソフィア、アストリッド、フェリシアが乗り、二台目にヒマジン伯爵と帝国機甲兵団の将校達三人が乗り込んだ。
三台目には、教導大隊を率いたジカイラ中佐とヒナ大尉が乗り込む。
四台目以降にアレク達教導大隊の各小隊が乗り込み、帝国機甲兵団の蒸気戦車の車列と帝国騎士の隊列がその後ろに続く。
最後尾は、車輪の付いた鉄檻に入れられた鼠人の捕虜と、同じく車輪の付いた鉄檻に入れられたトラキア連邦政府の高官達であった。
パレードが始まる。
軍楽隊が先導し、車列は街の大通りへ向けて、ゆっくりと入口の門へと進む。
入口の門をくぐると、門の上と街の建物の二階の窓から撒かれたであろう、空を舞う無数の紙吹雪と花びら、大きな拍手と歓声がパレードの車列を迎えた。
沿道にはたくさんの人、人、人。
帝国を勝利に導いた英雄達を「ひと目見よう」と大勢の人がひしめき合っている。
街の大通りには兵士が一定間隔で並び、パレードの隊列が通れるように規制している。
子供たちが手を振りながら走ってパレードの馬車を追い掛ける。
「「帝国、万歳!!」」
「「勝利、万歳!!」」
帝都の市民達は、革命戦役以来、十七年振りに現れた若き英雄・皇太子ジークフリートに熱狂していた。
熱狂的に喝采を贈る沿道の市民達に、皇太子の礼装に身を包んだジークは右手をかざして応え、制服姿のソフィアとアストリッドも笑顔で観衆に手を振って応える。
フェリシアは、熱狂に包まれる帝都の雰囲気に圧倒され、周囲を観察する。
(・・・凄い。・・・誰からも強制される事無く、人々は通りに繰り出して歓声を贈っている。・・・何という人々の熱狂! ・・・何という一体感! ・・・これが、これがバレンシュテット帝国!)
ジカイラは、紙吹雪と花びらの舞う、晴れた青空を眩しそうに目を細めて見上げながら、傍らのヒナに話し掛ける。
「・・・オレ達がこうやって、パレードに出るのも何回目だ?」
「十七年前の凱旋式と帝都入場式、そして、この前の出陣式と、今回の凱旋式で、四回目ね」
ジカイラはヒナに笑顔を見せる。
「ふふ。・・・何回でも悪くねぇな。『英雄』ってのは」
ヒナも笑顔で答える。
「そうね」
街の大通りをゆっくりと進むパレードの馬車列に沿道の人々から花が投げ込まれる。
アレク達ユニコーン小隊は、二台の馬車に分乗し、アレク、ルイーゼ、アル、ナタリーが前の馬車に乗り、エルザ、ナディア、トゥルム、ドミトリーが後続の馬車に乗っていた。
ルイーゼは、笑顔でアレクに話し掛ける。
「見て! アレク! こんなに人がたくさん!」
集まった観衆の多さにアレクも驚いていた。
「・・・凄い」
アルも口を開く。
「これ全部、オレ達を歓迎している人々なのか!?」
ナタリーはアルに微笑み掛ける。
「良いじゃない。私達、頑張ったもん!」
アルは笑顔で答える。
「そうだな」
やがてパレードの馬車列は、皇宮前に作られた特設ステージ前で停まる。
皇帝ラインハルトと皇妃ナナイ、帝国四魔将のアキックス、エリシス、ナナシの三人と帝国魔法科学省長官のハリッシュ夫妻など帝国政府の首脳が仰々しく辺境派遣軍の面々を出迎える。
壇上で総司令官である皇太子のジークが皇帝ラインハルトに勅命完了と帝国軍の勝利を報告する。
次に叙勲式が始まる。
航空部隊を指揮して鼠人の主力部隊を壊滅させたソフィアと、鼠人の本拠地である地下都市を潰したアレク達ユニコーン小隊が壇上に呼ばれる。
皇帝であるラインハルトから、一列に並んだ面々に順番に『帝国騎士十字章』が叙勲されていく。
叙勲が終わると、皇帝ラインハルトから皇太子のジークと妃候補のソフィア、アストリッドの飛び級での士官学校の卒業と結婚、トラキア連邦の帝国領への併合、ジークとフェリシアの結婚が発表された。