第7話
下校のチャイムが鳴り始める。卯月は既に校門前まで来ており、そのまま一人で下校する予定だった。
しかし・・・。
「ねーねー!君が卯月君?」
自転車を押しながら少し後ろを歩いていた女子生徒が、卯月に声をかける。
「そうだけど・・・」
「やっぱり!いやー大きいねー身長何センチあるの?」
自然と隣を歩きだし、そう聞いて来る女子生徒。卯月は怪訝な顔をしてこう答える。
「いや、誰だよ」
「私?私は吉川智美!鳥飼悠李の大親友さ!」
「あっそ」
そう言って卯月は会話を終えた。
「ええ!?無愛想過ぎない!?なになに?思春期拗らせちゃった系?もっと前向きに人生エンジョイしようぜぇ!」
「うぜぇ・・・」
正直距離を取りたい卯月であったが、すでに走る体力はなく、自転車に勝てるほど速く走れる自信もなかった。
なので完全に無視を貫くことにした卯月だが・・・。
「なんか今日は悠李が一緒に帰れないっていうからさー飼育委員で何かあったのかなって思ってさー。卯月君も飼育委員だよね?そこんとこ詳しく聞きたくて声をかけたわけ!
しっかし背が高いし、体格もいいね!傍から見れば一流のスポーツマンだよ。バスケとかしてた?ゴール下を支えるセンターとかカッコいいよねー!
私はテニスをしてるんだけどさ。最近才能の差っていうのを感じちゃっててさー。99%の努力と1%の才能とか嘘だよねー。40パーセントは才能だと思うんだよ。その点悠李は才能はめちゃめちゃあったのに、体格に恵まれなくてさー体格も才能の内?まぁそうなんだけど、悠李は体格の差を補えるほどの持久力と体力を兼ね揃えているんだよ。だけど世界で戦うとなるとねー。
おっと、話が逸れちゃったね。飼育委員ってだいぶ条件きつそうだったけど、下校時間前にここにいるってことはそうでもないのかな?でも悠李は一緒に帰れない。どういう事?まさか悠李一人に仕事を押し付けて?そうならば許されない事なんだけど!
どうなの卯月君!あんなに小さくて可愛い悠李にそんな鬼畜な事をするなんて!見かけによらずにドS?まさか!?すでに悠李は調教済みで・・・あぁ・・・あんなに純粋で可愛かった悠李がすでに穢されているなんて・・・うぅ・・・。
でもまぁ、悠李を強引に襲うなんて普通の男にできるわけないか。むしろ逆に調教されるまであるよね。悠李は小さくて可愛いけど、そのうちに秘めた力は常軌を逸しているしね。
だとしたらなぜだろう?卯月君はここにいて、悠李はまだ帰れない。うーんわからない。情報が足りない・・・。
あっ!そう言えば卯月君は2組だよね。ということはかなり勉強ができるんだね!私は5組と平凡なんだよね。1組が天才、2組は秀才とかって言われてるもんねー。ここのテストって結構難しいらしいから今から不安だよ。よかったらいろいろ勉強教えてくれると嬉しいんだけどな。あれ?卯月君寝てる?でも歩いてるから・・・あれ?もしかして聞こえてない?おーい!起きろー卯月ーまだ通学路だぞー!家に着いてから寝るんだぞー!!」
「うるせぇ!」
一人でひたすらべらべらと大きな声でしゃべり倒す吉川に、無視を貫くことが無理だと察した卯月。
「あっ!起きた」
「そもそも寝てねぇ!なんなんだよお前は・・・鳥飼の事なら知らねぇよ。仕事自体は一緒に終えた。そんで俺はまっすぐ帰っている。それだけだ」
「ええー!何か変な事はなかった?些細な事でもなんでも!」
「んなこと言われても・・・」
吉川から解放されるために、卯月は何か変な事はなかったか必死で考え・・・一つひらめいた。
「俺が推測するに、お前の親友で、小さくて可愛らしい鳥飼だが・・・」
「だが?」
卯月の真剣な表情に、ゴクリと生唾を飲む吉川。
「あいつなら今頃、教頭の隣で寝てるぞ」
「・・・は!?そそそ・・・それって・・・まさか!?」
「まぁそう言う事だ」
ピキっと吉川の体が硬直し、あまりの事実に頭が真っ白になっていた。
動かなくなった吉川を、これ幸いとそそくさとその場を去っていく卯月。
この後、鳥飼のスマホに大量のメッセージが送られる事となり、ちゃんと誤解は解けることとなる。
翌日の昼休み、卯月と桐沢は学食へと来ていた。
「つまり金縛りというのは、レム睡眠中に脳が覚醒してしまい、体が動かせない状況のことを言うのだよ。幽霊など非科学的なものが原因じゃなくてだね」
「はいはい」
桐沢の話を軽くかわしつつ、かけうどんをテーブルの上に置き、椅子に座る。桐沢は卯月の対面にカレーライスを置いて座る。
「つまり全てのオカルトなど、科学で証明できるのだよ。次の議題はポルターガイストについてで・・・」
卯月は話を全く聞くことなく、うどんを啜る。
ひたすら語り続ける桐沢と、無言でうどんを啜る卯月。突如、卯月を挟むようにドガッと乱暴に椅子に座る生徒が二人。
「・・・なんだよ」
「・・・殺す」
ブワッっと隣に座った生徒、鳥飼悠李からとてつもない殺意があふれ出す。
「卯月君なんであんな嘘言ったの?本気にしちゃったじゃん!」
対する吉川は頬を膨らませて怒りをあらわにする。
その様子を見て、一人置いて行かれている桐沢は呆然とするが・・・ニヤリと口角をあげてこう言う。
「なんだよトシ。いつの間にかこんなに可愛らしい女子と仲良くなってるだなんて、隅に置けない奴だな。『両手に花』って奴か?」
「こういうのは『前門の虎後門の狼』って言うんだよ」
卯月が立ち上がろうとすると、ガシッっと鳥飼に肩を掴まれる。それだけで卯月は、椅子から腰を浮かせることが出来なくなる。
「・・・なんだよ。離せよ」
「なんで・・・あんな嘘を?」
鳥飼の目からハイライトが消える。それを見ていた桐沢と吉川はひぃ。と小さな悲鳴を上げる。
「満更でもないんだろ?今はまだ好意を持ってるだけっぽいが・・・」
「っ!?」
「え!?ホントなの悠李!?」
吉川の言葉に鳥飼は答えない。卯月は鳥飼の手を払うと、食べ終わった容器をもって立ち上がる。
「まあいくら吉川がうざかったからと言って、変な嘘を言ったのは悪かった。あんまり俺に絡まないでくれ。めんどいんだよそういうの」
そう言ってその場を立ち去る卯月に、呆然とする鳥飼と吉川。
「すまないな2人とも。トシも悪気があるわけじゃ・・・いや?悪気はありそうだなアイツは」
カレーを口に頬張りながら、そう話す桐沢。
「えっと?」
「ん?・・・あぁ。俺は桐沢英二。科学部で委員は保健委員だ。卯月の自称親友だよ」
あっという間にカレーを平らげる桐沢。そして空になった容器をもって立ち上がり・・・。
「トシはめんどくさくなったんだよ。人と関わることがね。それだけのことが、昔あったのさ。だからそっとしておいてやってくれ」
失礼するよ。と言い、桐沢は卯月の後を追って行った。
残された二人は・・・
「教頭先生に恋してるってマジ?」
「・・・そんなわけ・・・ない」
そう言い合いつつ、持ってきたお弁当を広げ始めたのだった。
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