第4話
飼うならオカメインコ。時点で猫ですかねぇ・・・
一応資料を探しながら描写していますが、全然違ぇよ!って箇所はスルーしていただけると幸いです
「ここが見ての通り鳥小屋ですね。中にいる鳥たちの種類は――」
「セキセイインコとコザクラインコ。向こうの小屋はオカメインコ。あそこにいるのはモモイロインコとキバタンですね。どれも人懐っこくてペットとして人気のある鳥ですね。ここが天国ですか」
「・・・正解です。よく知ってますね卯月君」
「インコとオウムは一番好きな動物なんで」
「鳥怖い・・・」
「こんなに可愛らしいのに・・・」
金網越しにインコを撫でてご満悦の卯月と、少し離れた位置で震える鳥飼。
秋月教頭の『では次に行きましょう』という声に、不満げな卯月とホッとする鳥飼。
「見ての通りウサギ小屋ですね。性格が温厚な子達で人懐っこい子が多く、多頭飼いもそれほど嫌がる様子もないのでそのままです。去勢しているからかもしれませんが・・・縄張り意識の強いウサギにしては珍しい限りです」
「可愛い!」
「へぇ~おしりも汚れてないし、毛並みも綺麗ですね。ちゃんと大切に育てられている証拠ですね」
金網にしがみついてウサギを見る鳥飼と、冷静に分析する卯月。
「撫でまわしたい・・・」
「他に回るところがありますので、今日は見るだけで我慢してくださいね」
「うぅ・・・」
「ここは犬屋敷とでも言いましょうか、いろんな犬種の犬がいます。東雲先生の努力の甲斐あって、ちゃんとみんないい子にしているみたいですね」
入ってきた三人に警戒感を示すことなく、撫でて撫でて、遊んで遊んでと近寄ってくる犬達。
「犬の躾って結構難しいのにすごいなぁ・・・可愛がるだけじゃだめですから。・・・でもあそこにいるポメラニアンはなんです?」
卯月が目にしたのは、一匹だけ柵に囲われて隔離されているポメラニアンだ。
「あの子は特段気性が荒くてねぇ・・・野良だった期間が長かったせいかもしれませんが・・・未だに人に懐いてくれません」
秋月教頭が柵に近づくと、大きな声で吠え始めるポメラニアン。
「この通りでして・・・鳥飼さん?」
鳥飼は無言で柵に近づいていく。変わらずポメラニアンは大きな声で吠え始めるが・・・。
「ワンワンワン!!ワ・・・」
突如ビクッと身体を震わせると、後ろに飛んだ。
「大丈夫・・・怖くない」
鳥飼は柵の隙間から手を差し出すと、恐る恐るポメラニアンが近づき、鼻先でクンクンと鳥飼の指を嗅ぐと・・・。
「くぅーん」
と可愛らしい声を出して鳥飼の指を舐め始めた。
「・・・これは驚きましたね。大の犬好きの東雲先生でも手を焼いてたのですが・・・」
「犬の躾は上下関係を教えることから始めるんです。特に小型犬などは臆病な性格故に虚勢を張りやすい。
憶測ですが、鳥飼はまず、こいつには勝てないとポメラニアンに思わせた。その後に自分は安全な存在で、危害を加えることは無いと教えた。その結果があれですよ。
さすが暴力チビ。威圧もお手の物って訳か」
おやつの骨と間違われているのでは?と思うほどに、犬達にべろべろと手を舐められながら、卯月はそう言った。
「君は君でとても懐かれているようだし、随分規格外の生徒が来たものですね」
「秋月先生・・・この子・・・名前は?」
「えーと・・・いつもなら東雲先生が名前をつけているのですが、躾に精一杯でまだ名は無いかと」
「じゃあ柴太郎」
「いや、ポメラニアンだろ。柴犬じゃねぇよ」
「うるさい。この子は柴太郎」
「わん!」
自らの名前を認識したのか、柴太郎と呼ばれて返事をするポメラニアン。
「ではこの子の名前は柴太郎にしましょう。東雲先生にも伝えておきましょう」
「ここは猫たちの暮らす家ですね。キャットハウスと山本先生はよんでます」
「おぉー!まるで猫カフェですね。内装がオシャレだ」
「かわ・・・かわ・・・」
木でできた猫用のアスレチックに、猫がダランっと寝転がっていたり、3人が入ってきたのを見て寄ってくる猫もいる。
卯月は目を輝かせ、鳥飼は今にも襲い掛かりそうなほど興奮していた。
「山本先生がこの家のコーディネートをしたのですが・・・人間も居心地がいい様にしたせいで、入り浸ってしまう教師もいて困ってるんですけどね」
秋月教頭は苦笑いしながらそう言った。
「2人も仕事をちゃんとやってくれれば、放課後ここでのんびりしてもいいですからね」
「「はい!」」
秋月教頭がキャットハウスから出ると、2人もそれに続く。鳥飼は名残惜しそうに何回か振り返っていた。
「あと4箇所回るのですが、この4箇所の場所は2人に頼む仕事はないです。しかし場所だけは覚えておいてください」
「仕事がないというのは・・・素人には難しいからですか?」
「それもあります。繊細な生き物ですから、下手に触ると動物の命に関わることもあります。あとは・・・」
「・・・あとは?」
「その・・・担当している教師の方が一癖二癖ありまして・・・もし何かあったら、担当教師に何をされるか分かりませんので」
「・・・それは教師として大丈夫なんです?」
「教師としては素晴らしい方々ですよ。それだけ彼らにとって大切な子達なんですよ」
「ここが實渕先生曰く、研究所と書いてラボですね。今日は入室許可を得てますので、どうぞ」
秋月教頭は、金属で出来た重々しい扉を開き、中に入る。それに続いて2人も恐る恐る中へと足を踏み入れる。
「なんかちょっと暑い?」
「ひぃ!」
「鳥飼さん。お静かに」
「大きな蜘蛛が・・・」
「あぁなるほど・・・それで少し暖房が入ってるわけですか」
その部屋にはケージに入れられた蛇やトカゲ、タランチュラやサソリなど、所謂変わったペット達が飼われていた。
「卯月君は大丈夫なんです?」
「ええ。タランチュラはちょっと怖いですけど・・・ヘビとか可愛いじゃないですか。あっ!白いボールパイソン!縁起がいいですし、懐いたら可愛いだろうなぁ」
「ここ・・・怖い」
「鳥飼さんはダメなようですね。では次に行きますか」
「よく見るとつぶらな瞳で可愛いのになぁ〜」
「ここは水谷先生の管理する水の楽園ですね」
「これは凄いな・・・」
「綺麗・・・」
部屋中に大きな水槽がいくつもあり、熱帯魚や金魚、亀、海水魚などが水槽の中で元気に泳いでいた。
「ピンポンパールだ。金魚で一番好きな品種だ」
まるでピンポン玉のようにまん丸い金魚を見て、卯月が興奮する。
「グッピー・・・沢山・・・綺麗」
「今のふたつの部屋を見てわかったかと思いますが、保護している動物だけではありません。ここには先生方が個人的に買っているペットもいるわけです」
「だから大事にしろと?」
「まぁそうでなくても、お2人なら大事にしてくれると思いますが・・・一応釘は刺しておこうかと。では次に行きましょうか」
「ここは小山先生の管理しているネズミ大国ですね」
「ふぁぁ・・・可愛い・・・」
「ジャンガリアンにキンクマ、チンチラまで。これはデグー?確かにネズミ大国ですね」
ケージの中の団子みたいに丸まっているジャンガリアンハムスター達を、キラキラした目で見つめる鳥飼。
「あれ?でも蛇とかタランチュラの餌って・・・」
「それ以上はいけませんよ卯月君。ここではタブーです」
「・・・小山先生と實渕先生の仲が悪いことは何となくわかりました」
「まぁ各小屋はかなりの距離離れていますので、滅多なことは無いと思いますがね。さて、次が最後ですね」
「最後って事は、教頭先生の管理するところですか?」
「まぁそうとも言えますね」
最後の場所と言われて2人が連れてこられたのは、日本家屋からすぐそこの、小川が流れている所だった。
そこにあるのは少し大きめの畑だ。
「ここが私の管理するところ・・・まぁ家庭菜園のようなものです」
「へぇ〜立派な畑ですね」
その畑には春が旬の野菜であるキャベツが立派になっていた。
「肥料は幾らでもありますからね。有機栽培と言うやつです。形が悪いのと、虫に食べられてしまうのは難点ですけどね」
そう言いながら秋月教頭は分厚い皮の手袋をはめる。
「そしてこの子が、私が唯一飼っている子です」
そう言い終わると、竹でできた笛を鳴らす秋月教頭。
少しすると空から大きな鳥が飛んできて、秋月教頭の腕の上に着地する。
「カッコイイ・・・」
「鷹・・・オオタカですね?」
「ええ。正解ですよ卯月君。鷹匠の知り合いがいましてね、その人に色々と教えてもらいましてね。この子がいるおかげで、この野菜たちがカラスなどにつつかれずに済んでいるのです」
ピィーピィーと鳴く鷹に、秋月教頭は生肉を与えると、鷹は再び空へと飛び立っていった。
「放し飼いですか!?」
「大丈夫です。人は襲わないように躾てますし、彼女は賢い。その翼を小屋の中で腐らせるより、空で思いっきり羽ばたいてもらいたいのです。・・・まぁ脚にGPSをつけてますので、見失うことはありませんけどね」
呆然とする卯月と鷹に興味津々の鳥飼。
「鷹は怖くなかったですか鳥飼さん」
「小鳥は怖い・・・けど・・・鷹カッコよかった」
「それは良かった」
キーンコーンカーンコーンっと下校時間のチャイムがちょうどよく鳴り響く。
「おや。もうそんな時間でしたか。どうでしたか?ここでの仕事は出来そうでした?」
「「はい!」」
「それは重畳。では明日からよろしくお願いしますね」
「今日はありがとうございました」
「また明日」
「ええ。気をつけて帰ってくださいね」
さようならっと帰りの挨拶をしながら、卯月と鳥飼は秋月教頭と別れる。
卯月は少し浮き足立った様子で歩き、鳥飼は瞬く間に走り去っていく。
そんなふたりの様子を見て、秋月教頭は微笑むのであった。
「東雲先生。あのポメラニアンの子なんですが」
「ああ、なんかいきなり大人しゅうなっとりましたね。教頭が何かしたんです?」
「私ではなく鳥飼さんが・・・ええっと名前なんですが・・・」
「ラメ子にしようかおもぉてましたけど、もう名前つけてくれはりました?」
「ええっと・・・柴太郎になりました」
「は?」
「柴太郎です。あの子もその名前を自分の名前と認識しちゃったみたいで・・・」
「ポメラニアンですけど?」
「名前は柴太郎です」
「なんなら雌ですけど?」
「柴太郎・・・です」
「なんっっでやねん!」
二人の預かり知らぬ所で、東雲のツッコミが山にこだましていた。
お読みいただきありがとうございます。
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