冒頭
自然に囲まれた僻地にある私立霧島高校。偏差値50程度の進学校なのだが、その立地故にあまり学生に人気はない。しかし優秀な教師が多く、有名大学への進学率などは高い。
在学生の総数は1000人程度。大きな校舎とグラウンド、少し離れた所にも第二、第三グラウンドがある。それほどに学校の敷地は広い。
普通に通学するだけなら問題ないが、学校の敷地を端から端まで探索しようとすると、日が暮れる事だろう。
そんな高校の校舎から歩いて15分。雑草が生い茂る中、大きな鉄柵で囲われた小屋には色とりどりのインコ。少し離れたところには大きめのウサギ小屋。
その他にも小屋が何件か建ち並んでいる場所に、2人の生徒が歩いてくる。
1人は身長180cmほどで体格のいい男。少し茶色が混ざった黒髪は、スポーツ刈りで短いながらも、くせ毛が重力に逆らい、所々はね返っている。
もう1人は身長150cmに届いていないであろう小柄な少女。漆黒の髪で、前髪は眉毛の下で切り揃えられ、後ろ髪は肩にかからないくらいだ。
まるで親と子のように見える2人だが、同級生である。
「今日は鳥小屋の掃除とウサギ小屋の掃除だっけか」
男は少女の方を見ずにそう呟く。
「ん」
「そうか。どっちがどっちをやる?」
その答えに返答することなく、少女は一目散にウサギ小屋に走っていく。
「まぁそうだよな」
男は1人で納得して、作業道具を持って鳥小屋に向かう。
男が鳥小屋に入ると、インコ達は大きな木と勘違いしているのか、男の肩と頭の上に次々と乗っていく。
「ちょっと掃除させてもらうからな〜大人しくしてな〜」
インコ達はピルピルと鳴きつつ、男の頬に頬ずりしたり、男の髪の毛で遊んだりしている。
「こんなに可愛いのに怖いとか、意味わかんねぇよな〜」
床に敷かれている汚れたおが屑を掻き出し、新しいおが屑を床に敷いていく。
一通り掃除が終わると、インコ達の首筋を優しく撫でていく男。
「はぁ〜癒される・・・可愛いすぎだろ〜うりうり」
インコは気持ちよさげに目を閉じ、体を膨らませていた。
しばらくインコ達を愛でていると、遠くの方からチャイムの音が聞こえる。
「っと・・・もう下校時間か・・・」
インコ達を止まり木に乗せ、二重になっている出入口から小屋の外に出ると、少女が担当しているであろうウサギ小屋に向かう。
「はぁ~・・・またか・・・めんどくせぇ」
金網に囲われたウサギ小屋の中で、少女は真新しい井草の上で、ウサギたちと共に丸まってすやすやと眠っていた。
男はウサギたちを驚かせないよう静かに小屋に入り、床に敷かれている井草を一本手に取る。
「起きろ~帰る時間だぞ~」
手に取った井草で少女の頬を突っつく男。
「んっ・・・」
むくりと体起こした少女は、寝ぼけ眼で男をじーっと見る。
「下校時間だ。さっさと帰らないと怒られるぞ」
少女はフラフラと立ち上がり、小屋の出入り口に向かって歩き始める。その後に続いて男もウサギ小屋を出ていく。
「髪にも草がつきまくってるぞ」
「ん・・・取って」
自分の制服を手で払いながら、少女はそう言う。
男は少女の頭をガシッと掴み、ワシャワシャと乱暴に髪をかき混ぜる。
「ほい。取れたぞ」
「痛いし髪型がぐちゃぐちゃ・・・最悪」
「そう思うなら自分で取れ。あと寝るな」
「善処する」
男は溜息をつき、めんどくせぇと呟き、少女と帰り道を歩いていく。
この物語は、面倒くさがり屋の少年と言葉足らずの少女、2人の恋愛物語である。
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