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光の花

作者: 清里優月

 白い病室の中、たくさんのチューブに繋がれた彼。

「大丈夫だよ」

 彼は笑う。眼鏡の下の薄茶色の瞳が優しく私を見つめる。

「うん。大丈夫だよね……」

 私も強がって笑う、だいじょうぶだよね。あなたを失ったら私死んでしまう。あなたと出逢えてそれまでの一人の私は二人でいる温もりを覚えしまった。一人でいるより二人でいる幸せ。あなたと居て私、小さな頃の大好きな記憶を思い出したの。


 小さな頃におばあちゃんが連れて行ってくれた神社のお祭り。ふわふわの綿菓子にかぶりついて、金魚が入ったビニールに紐を通したものを左腕に巻きつけて。大好きなおばあちゃんが笑った。

『楽しい?』

 おばあちゃんは嬉しそうに首を上下させる私に微笑む。

 それが私の血の繋がった家族という記憶の最後。


 おばあちゃんは、その年の冬亡くなった。

 だあれもいない、私の両親は事故で亡くなって祖母だけが私の家族。

 お祭りの太鼓にお囃子の中。浴衣姿の私の傍の手を引く祖母。

 そのしわくちゃな暖かな手。空に花火が上がった。

 ひかりの、はな。幸福な最後の思い出。


 どうして、こんな最後に思い出せるのだろうか?

 ずっと、封じてきた記憶を。一人で生きていくのには、必要のないものを。


 きらきらと空に輝く花火。あの人は真夏の空に浮かぶ花火を指して

『光の花だ』

 無邪気に笑った。

 私の恋人、エド。


 ひかりのはな。エドの手がどんどん冷たくなっていく。

 眠っているのではない、もう死んでしまったエド。

 そうっとエドの手をとって、自分の頬に当ててみる。

「冷たい……」

 もう答えない、答えない。

 

 彼との最後の夜、病院の窓から見えた風景。

 ひかりのはな。エドの最後の言葉。

「ねえ?光の花が咲いているよ?」

 私は彼に囁く、でももう彼は答えはくれない。永遠に。


エドが死んだ、死んだのは真夏だった。庭に咲いていた黄色い向日葵の鮮やかな色

とうるさい蝉の声がみんみんと鳴いていた。それだけを、覚えている。


 ひかりの、はな。



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