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きみが世界をほしいと言ったから今日は世界創造記念日

作者: 初月・龍尖

ダキュネはカフェのテラス席でひとりうなだれた。

彼女は姫である。王族の血筋とかではない。サークルの姫、貢ぎに貢がせて関係性をぐちゃぐちゃにするあれである。

歴戦の姫であるダキュネだったがそろそろ先が見えてしまった。そう、30という数字である。

「あー、そろそろ身を固めたほうがいいかなあ」そう呟いてコーヒをすする。

彼女はいま、白の銀骸というサークルに所属している。もちろん、というか当たり前だがサークルの全員と関係を持っている。

短くて2日ほど、長くても2週ほどでサークルを崩壊させてきたダキュネだったが白の銀骸にはもう4月以上在籍している。

「なんだか居心地がいいんだよなー。ううう、変な感じ……」テーブルに突っ伏してダキュネはもぞもぞと身をよじらせた。

ダキュネは最初、白の銀骸はもって5日ほどで崩壊すると見ていた。サークルをいくつも崩壊させてきた彼女は雰囲気である程度予測を立てることが可能だった。しかし、その予測は簡単に裏切られていた。いつまで経ってもサークルは崩壊せず、逆に繋がりが強固になっている。ダキュネはそれを身を持って感じていた。

違和感を持ったのは全員と関係を持ちデートを重ね身体を重ね、あとは貢がせて崩壊させるぞ!などと思ったときだ。次のデートに臨めばなぜか技術が向上した彼らがいた。

性の技術だけではない、ダキュネに関する情報全てを彼らはアップデートしていた。

好きなたべものにはじまり、服装、仕草、歩く速度にいたってまで彼らはダキュネに合わせてきた。しまいにはポツリつつぶやいたほしいもの、たべたいものを別の男がプレゼントし始める。全員が全員でこうなれば敏感なダキュネはすぐに理解した。コイツラ情報を共有していやがるぞ、と。

ダキュネはやばさを感じつつもここまでのまとまりを見せた白の銀骸を崩壊させたいという欲がむくむくと大きくなった。姫の性である。

そうしてずるずると時間が過ぎたあるとき、彼らは突如消えた。

ここ数週間、ダキュネはサークルの集まりに参加できていない。というよりもたむろっている場所に行っても彼らがいないのだ。

ため息を吐きカップに残ったコーヒーを飲み干そうかと顔を上げてみれば目の前に7つの影があった。白の銀骸の7名であった。

彼らは皆、ダキュネに自慢していた自身の最高装備を身にまとっていた。しかも、その装備は半分以上破損し血がこびりついていた。彼ら自身も傷つき息を切らせていた。

「だ、大丈夫!?みんな!」

ダキュネも一応は魔女である。さっと杖を取り出し癒やしと疲労を回復させる術を展開する。たどたどしい詠唱で。

もにゅもにゅと詠唱をし淡い光が彼らを包み込む。彼らは光の中で申し合わせたかのようにダキュネの前にひざまずいた。

「ダキュネちゃん。きみの欲しがっていたものを僕らはもってきました」

折れた剣を腰に下げた男が言った。

「わ、たしのほしいもの?」

ダキュネは困惑した。ほしいものなんていくつもあるからだ。どれのことだか正直判断がつかなかった。

「これをその身に」

半分以上装備の無い男が腰の袋からひとつのアイテムを取り出した。それは光の玉に包まれた銀にも金にも見えるひよこだった。

ごくりと喉を鳴らしたがダキュネはそれを受け取らなかった。頭の中では警告音が鳴っていた。今まで姫をしてた中で一番の警戒アラートだった。

「……、わたし、何が、ほしい、って言ったかな?あはは……」

ダキュネがそう言うと摩耗した杖を持った男が杖を掲げると彼女の前に映像が浮かんだ。それは酔ったダキュネが僧衣の男に絡む映像だった。

『……、だらかあ、わたしがほしかったらあ、世界をくれるぐらいの、きあいがないと、だめなんらってえ……』

覚えていない。ダキュネはこんなことは覚えていない。それは当たり前である。アルコール度数の高い酒をしこたま飲んで次の日にはそのことを忘れている、そんなことは日常だったのだから。

彼らはその願いを真に受けた。受けてしまった。彼らの姫、同一の彼女、その願いを叶えたい。その愛を、身を自分たちのものにしたい。その一心で彼らは神に挑み、もぎ取ってきた。取ってきてしまった、世界の、権限を。

ダキュネの眼から涙がこぼれ落ちた。なんで泣いているの?と自問する彼女の眼からはとめどなく涙が流れた。気がついていた。居心地がいい、安心する、帰る場所がある、護ってくれる人たちがいる。ダキュネも、彼らのことが好きになっていたのだ。ただ、1人ひとりが好きなわけもあるが集団としても好きだった。家族のような感じがしてほわほわした気分だな、とも思った。

ダキュネはずっと独りだった。自分では気がついていなかったが満たしてくれるものを探していた。自分を認め、愛してくれる存在を。

術による光が収まりだすと周囲が騒がしくなっているのが分かった。公共のカフェに血だらけの男たちが現れて光りに包まれればすわフラッシュモブかと騒ぎになるのは必死であった。

上半身が特に血まみれの筋肉質の男がさっとダキュネを横抱きにすると他の6人がそれを護るように円陣を組み素早くその場をあとにした。カフェに残された客たちは迫真の演技だ!と拍手を送っていたという話を彼らが耳にすることはなかった。

溜まり場に戻った7人はダキュネ用の椅子に彼女を座らせた。1人が泣きはらしたダキュネをなだめ、1人がアロマを焚き、1人が紅茶を淹れ、1人がブランケットをかけ、1人が外を警戒し、1人が買い出しに出かけ、1人が軽食を作った。彼らのその動きは淀みがなく、まるでごく当たり前であるかのようにスムースに行われた。えぐえぐと泣くダキュネは気が付かなかったが。

落ち着いたダキュネは「化粧が崩れちゃた。でも、あなたたちなら、いい」といった。

その言葉を聞いた7人は再びダキュネの前にひざまずいた。そして、例の光の玉を掲げた。

「ダキュネちゃん。どうぞ。僕らがあなたのために」そこまで言ったところで男はくちびるをふさがれた。ダキュネは口づけをするたびにくちびるを拭きながら7人全員に口づけをした。

「ありがと、みんな。わたし、やっとほしいものがこの手の中にやってきたの。これから、よろしくね!」

ダキュネはそう言うと光の玉を胸に沈めた。すると彼女はぐうう、とうめき声をあげた。

7人は慌ててダキュネに駆け寄ろうとしたが彼女は胸から発生した力場に包まれ浮かび上がったため叶わなかった。

ダキュネの胸からは7本の線が伸び7人の胸につながった。

ダキュネは銀とも金とも見分けがつかぬ色に包まれていたが7人はそれぞれ赤色、橙色、黄色、緑色、青色、藍色、紫色の光りに包まれた。

そして、ダキュネはああ、とひとつあえぎ声をあげ世界を産んだ。

世界は産声を上げた。それはまるで新たな朝を告げる一番鶏の声のようだった。


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