No8
「こんにちは。あなたがコンラット様の仰っていたロイ様ですか?」
「アルマージュ商会のロイと申します。どうかロイとお呼びください。聖女様におきましては」
「ふふ。堅苦しい挨拶はいりません。彼の心の支えになって下さり感謝します。心は私では治癒できませんから…。それで、ロイが探しているという夢魂病の患者ですが」
神々しい美しさを持つ聖女様に、コンラット様の手引きでお会いすることが奇跡的にできた。もう、運使い果たした?ドキドキしながら謁見している。
「毎日家族の者が懇願しに訪れていましたが、手の施しようが無いと帰すしかありませんでした。数日前からぱったりと訪れは無くなり、もしやもう儚くなってしまったかもしれません。」
「…っ。」
やっと掴んだ手がかりなのに。手が震える。もし…、身体が死んでしまったから天使なお嬢様が『外』へ出てこられなくなってしまったのだとしたら…。もう2度と会えないかもしれない。その現実が受け入れられない。
まだ、希望はある。確かめなければ。まだ、諦めない─。
「それでも、私は、確かめたいのです。どうか、その方の情報を頂けないでしょうか。」
床に頭が付くほど頭を下げる。涙が零れそうになりぎゅっと唇を噛みしめる。希望を持ちたい。でも怖い。でも…会いたい。彼女に──。
「あなたの覚悟、わかりました。もし、魂と身体が無事であれば、私も治療ができましょう。ここへ連れおいでなさい。お力になりましょう。」
そう言って聖女様が優しく微笑む。自然と涙が流れ、もう一度深く深いお辞儀をする。
何故かコンラット様も泣いていた。基本的にいい人だよね、あの人。うちのお嬢様がすみません。聖女様と末永くお幸せにと祈らずにはいられなかった。
聖女様に聞いた情報を元に、夢魂病の患者の家族を探す。確か街の外れの宿に泊まっているはず。
宿を片っ端から訪ね歩く。やっとそれらしい情報を掴んだ時には日が暮れていた。
宿の主人に頼み、その家族を呼んでもらう。アルマージュ商会の顔が効く宿で良かった。しばらくして階段から降りてきたその姿を見て息を呑む──。
「マイル…先生…?」
痩せこけて、やつれた表情はしているが、小さい頃から見てきたから忘れるはずがない。マイル先生だ。情報を色々と探したが、領主の仕事を補佐に任せ、長期休暇をとっていることしか掴めなかった。そのマイル先生が何故…──
「ロイ?」
マイル先生も俺が分かったみたいで驚いた表情をしている。マイル先生がお屋敷を出てから数年ぶりの再開が、まさかこんなことになるなんて。
「お久しぶりです。まさかマイル先生に会えるなんて…。聖女さまから夢魂病の患者の家族のことについてお聞きし、この宿に来たのです。マイル先生、夢魂病の方をご存知でしょうか」
声が震える。マイル先生の表情で何となく分かってしまう。いい言葉は聞かれないと…。それでも、聞かなければいけない。ぐっとマイル先生を見つめる。
「ああ。私の妹だよ。もう一月も目が覚めない。聖女様にすがるしかなかったが、魂の行方が分からない状況ではどうにもならないと言われた。数日前に脈が途絶え、呼吸も止まった。」
マイル先生の瞳から涙が流れる。俺は…間に合わなかったのか…。
「しかし、まだ温かいんだ。まるで生きたいと…そう言っているように─」
「っっ…!!マイル先生!!妹さんに会わせてください!!まだ、助かるかもしれない!!」