No4
「ロイも良くシルヴィアに着いてきてくれましたね。共にシルヴィアを更生させましょう!!」
「え?俺も関わるの?」
何だか面倒事に巻き込まれた気がする。そもそも、今お嬢様の中に入っているこの天使は何者なんだろうか…。
天使なお嬢様は、あの悪魔なお嬢様と深層心理のような『中』で話ができるようだった。
根気強く、悪いこと、直した方がいいこと、庭師のじいさんを大事にすることを懇々と諭しているようだ。
「シルヴィアは強情ですね。でも、良い子だと思うのです。素直になれるタイミングを逃して大きくなってしまっただけで。きっと、きっと大丈夫です」
天使なお嬢様は、本当に天使かもしれない。
『中』で段々と悪魔なお嬢様と打ち解けてきている様子だ。何だか、天使なお嬢様がいつか消えてしまうんじゃないかと思うと、胸が締め付けられる思いだった。サヨナラ俺の平穏な日々…
「ロイ。あなたには感謝しているのですよ。本当にあなたが居てくれて良かった。シルヴィアが羨ましいくらいです。」
ボソッと言ったお嬢様の言葉は、俺には聞き取れなくて。少し寂しそうに微笑むお嬢様を無性に抱きしめたくなって、自分の頬を思いっきりぶん殴った。ダメダメ、何考えてんだ俺…。
「ロイ?だ、大丈夫ですか?」
「はい!大丈夫です!!気にしないでください!!」
余計なことを考えるのは止めよう。俺はお嬢様の忠実な侍従だ。それ以外でもそれ以上でもない。
必死に生まれようとする感情を心の奥深くへ埋没させる。何だか、悪魔なお嬢様が恋しいくらいだ。…
いやいや、何考えてんだ俺っ!!
お嬢様を別れ、庭園の片隅で頭を抱え込む俺に、そっと一輪の花が差し出される。
「悩みなさい。わしはロイの味方じゃよ」
庭師のじいさん────!!!!
「ロイは悩みがあると、いつもここで蹲っとるな。お前はいいこじゃ。頑張りすぎずに、気楽におやり」
庭師のじいさんは、孫を見るかのような優しい眼差しで俺の頭を撫でる。俺、もう22歳なんですけど。やめてよ、ちょっと泣いちゃうよ?じいさんのそういうとこだよ?皆に好かれてるのは。
「じいさ───ん!!!」
もう号泣だよね。大好きだよ。庭師のじいさん。もう本気で孫の座を奪っちゃおうかな。じいさんのもふもふした髭に頬ずりしながら、やさぐれた気持ちが嫌されていくのを感じた。
「そう言えば、最近マイルさまを街でお見かけしたよ。随分やつれとった。お身体が心配じゃな。
「え…、マイル先生が?」
家庭の事情でお屋敷を辞めて以来、マイル先生について聞くことは無かったから、吃驚した。数年前にご両親を事故で亡くされて、今は親の領地を継いでいると思ってた。
「領地運営は上手くいっとると、旦那様が言っとったが…。領地から離れたこの街で、何をされとるんじゃろうか」
心底心配そうに庭師のじいさんは街の方を眺める。
「俺も心配だ。少し調べてみるよ。」
庭師のじいさんを安心させてやりたいし、何か動いていないと、色々変な思いを抱いてしまうから、とにかく、とにかく、何かしていたい!!そんな邪な思いも無きにしも非ずだけど!!
「ありがとう。ロイ。無理だけはせんようにの」
こうしてお嬢様の件と並行してマイル先生についても調べることになった。