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2/13

No2



「みなさん、何もかも忘れてしまいましたが、よろしくお願いいたしますね」



屋敷に着くなり、そう笑顔で言われたお嬢様に、使用人は固まり、庭師のじいさんは腰を抜かした。


「えー!!ヴィアちゃん、どうしたの??パパのこと忘れちゃったの??おい、ロイどーゆうことだ、おい」


いつもは優しい旦那様は、鬼の形相で俺に迫ってくる。奥様は庭師のじいさんを介抱しているが、動揺している様子だった。


「コンラット様より婚約破棄を言い渡されまして、そのショックなのか、お嬢様はすべてを忘れてしまい、別人のようになられてしまいました」


これしか言いようがない。だからこの首に置かれている手を解いてほしいな。微妙に苦しいから。旦那さま、俺のこと殺そうとなんてしてないよね?


「そ…そんな…、ヴィアちゃん…」


「お父さま…?ですのね。何やら悲しませてしまい申し訳ありません。私は大丈夫ですわ。だから悲しまないでくださいまし。」


使用人一同、無になる。え…??誰…??みたいな。庭師のじいさんはついに気を失った。





それから、お嬢様の記憶は戻ることなく数日が過ぎ、お嬢様は─


「ロイ、いつもありがとうございます。何か仕事はありませんか?私にできることはありませんか?」



別人のようにテキパキと動き、商会の手伝いまでするようになっていた。え…本当、誰…?みたいな。


ケバケバしい化粧を落とし、髪を括り、ゴテゴテしたドレスを動きやすいワンピースに変えたお嬢様は…見た目だけでも…え?ナニコレ天使?みたいな感じだった。


性格も謙虚で優しく誠実な…え?ダレコレ天使?みたいな…。

最初はびくびくしていた使用人や商会の従業員も、今ではお嬢様にメロメロである。


庭師のじいさんはついに仕事に復帰した。






「ロイ。私、この頃、シルヴィアと私は別の人格ではないかと思うことがあるのです」


「え?」


お嬢様は遠くを見つめながら、俺に話しかける。まあ、別人ではあるよね。性格全く違うし。


「最近夢にシルヴィアという女の子が出てくるのです。ずっとその子は怒っていて、強気で周りを傷つけてばかりいる。けれども、大好きな人に振られてしまって、もう外に出たくないのですって。」


お嬢様の話は、突拍子の無い物に聞こえるけれど、真っ直ぐな瞳は嘘ではないと物語っている。嫌だ。それならお嬢様は…


「私ね、シルヴィアに立ち直って欲しいのです。きっと、他人から傷つけられる痛みを知ったシルヴィアなら、やり直せます。私は、きっとシルヴィアではない、別の人生を歩む者ではないでしょうか。シルヴィアを…外へ出してあげたい。協力してくれませんか?」


「嫌です。俺は、今のお嬢様がいい」


つい地が出てしまう。だって、こんな天使なお嬢様なのに。またあの悪魔のようなお嬢様に戻るなんて…絶対嫌だ。


「ふふ。ありがとうございます、ロイ。でもね、きっといつまでも私はシルヴィアでは居られない気がするのです。ここの人たちは皆大好きです。シルヴィアにも知ってほしい。自分がどんな素敵な場所に居るのか。」


寂しそうに微笑むお嬢様に俺は頷くしかなかった。本心は引き裂かれそうなくらい辛い。今の天使なお嬢様が居なくなるなんて…。


「とにかく、シルヴィアのことを教えてくれませんか。嘘偽り無く──」


え…、いいの?

天使にあの悪魔なお嬢様の真相なんて話しちゃって…




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