表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/4

追放なんてさせない

「――――ローウェン。テメェ、その体たらくはなんだ」


「え…………」


「ダンジョンの中で呆けるとは、ずいぶんなご身分だな? え?」


 ディルゴの声はやけに冷えていた。普段と違うその様子に、ローウェンは身の竦むような思いでいた。


「そ、そんなつもりは……」


「確かに今日のローウェンさんは妙でしたね。どこか上の空というか。気にかかることでもあるのか、警戒が疎かであったような気がします」


 アイゼンもローウェンの今日の様子が変だったと追従する。


 だが、それも無理はない。

 ローウェンはアルスの追放を回避することで頭がいっぱいだったのだ。ローウェン自身から見ても、今日のローウェンは変だったと自信を持って言える。


「ローウェン。君とは屋敷にいる頃からの仲だ。お互いのことを知らないとは言えない」


 ユリウスのフォローに、ローウェンは一瞬だけ安堵しかけた。


「けど、そこに胡坐をかいていないか? もちろん、君の雇い主は父だ。けれど、だからと言ってそれは君の立場を保証するものにはなり得ないよ。自分の務めをしっかりと果たす。そうして初めて一人前になれる」


 だが、ローウェンの目の前で一瞬のうちに梯子が外される。

 ローウェンは予想外の状況に何も言えなかった。

 今まで口を揃えてアルスを追い出そうとしていた人間たちが、今度はローウェンのことを謗り始めたのだから。


「ローウェンが今後も、その調子でやっていくつもりなら――――」


 ――――このパーティには不要だ。


 それは、追放宣言。


 かつてアルスに向けられていたはずのソレが、今度は自分に向いている。

 その事実を受け止めきれず、ローウェンはぱくぱくと口を開閉させていた。


 だが、何も言えないローウェンに代わり、最初に口を開いたのは意外な人物だった。


「ま、待ってくださいっ! みなさん!」


「どうしたんだ、アルス?」


 ユリウスが問いかけて、アルスは緊張した様子でごくりと唾を呑んだ。


「そ、その! ローウェンさんは、今日、ずっと僕のことを気遣ってくれていて……だ、だから少しだけ注意が逸れていたんだと思います……それに! さっきだって、ミノタウロスの攻撃から僕たちを庇おうとしてくれていて……」


「い、いや、そんなことは――――」


 ローウェンは普通にミノタウロスの存在に気付いていなかったし、アルスの言うことにも心当たりがない。


「で、ですから、その、ローウェンさんがいないと、ダメなんです! 僕たちのパーティには……!!」


 アルスの必死な訴えに、他のメンバーも考え込む。


「…………まあ、確かにな。これまでローウェンはよく働いてくれた」


「もしかしたら、先ほど頭を打ったのが影響しているのかもしれませんね」


「ちっ。ローウェン、テメェ、ここからは気合入れろよ? 分かってんだろうなァ?」


 などなど、口々にローウェンの追放を取り下げる。

 ローウェンは内心でほっとしつつも、アルスの方を見る。

 アルスは「えへへ」と人懐っこそうにローウェンに笑いかけてくれた。そして、耳元でそっと呟いた。


「――――今度は、僕が守りますね」


 目を丸くするローウェンに、アルスは「任せてください」と顔をくしゃりと崩して笑ったのだった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 僕の名前はアルス・レイジオ。Aランクパーティ『英雄の詩』の一員だ。160程しかない身長に、細身な身体。屈強なローウェンさんやディルゴさんは況や、魔術師のアイゼンさんにも力負けするだろう。

 僕の職はテイマー。相棒のアークリザード、クィルと頑張っている。パーティ内では雑用や荷物係を主に担っていて、一応、斥候もしている。


「ローウェンが今後も、その調子でやっていくつもりなら、このパーティには不要だ」


 パーティリーダー、ユリウスさんの言葉。

不要の二文字を突き付けられたローウェンさんは、驚愕のまま固まっている。

 この言葉を聞くのは、一度や二度じゃない。


 これで三度目。


 僕は既に確信していた。


 この世界は、繰り返していると。


 何が原因で、どういう理屈かも分からない。

ただ、この場でローウェン・ラストを引き留めなければ、この先の階層でパーティは全滅する。一度目も、二度目もそうだった。


 パーティメンバーが全滅するのは避けたい。


 でも、それ以上に自分に優しく接してくれて、何度も助けてくれたローウェンさんがパーティから追い出されるのを、見たくなかった。


 だから。


「――――今度は、僕が守りますね」


 そう笑いかける。

 それは宣言であり、覚悟。


 何としても、彼を追放なんてさせない。


 アルス・レイジオは、そう、固く決意したのだった。


普段書いてる作品が長編なので、たまには1,2万字ぐらいの短めの作品もいいですね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] こういう捻られた作品大好きっす
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ