第62話
そんな中、ナベカムリが蒼穹に向かって言った。
「蒼穹、気を取り直せ。このままでは埒が明かん。まずは相手の情報を集めるのだ」
ナベカムリの助言に従って蒼穹はまず通信の発信源と下仁田特殊サルベージサービスなる会社が何者かを調べた。
情報はすぐにもたらされた。下仁田特殊サルベージサービスとは主に宇宙空間で航行不能になった船舶の回収を行うのが業務の会社らしかった。創業は四十年程前かららしいが最近の業績は幾つかの不祥事が続いて振るわないらしい。
「だからこんなクズ社員しか雇えないのか……」
だが問題は通信の発信源の方だった。
「何だって! 発信源は妖星ヒダルからだ!」
その事実に蒼穹は息を飲む。更にリーカはその妖星ヒダルからある恒星系との間で通信のやり取りを行っている形跡までも発見した。
「蒼穹、このまま妖星ヒダルの中身を調査しろ!」
ナベカムリの声にも緊張が走る。
蒼穹はヒダルの正体を更に調べ上げた。
何てことは無かった。リーカは発信源だけでなく、その情報も妖星ヒダルを経由して下仁田特殊サルベージサービスが公開している企業サイトにアクセスし、業務内容を読み込んだだけだった。
すると驚愕の事実が次々と判明した。
妖星ヒダルは下仁田特殊サルベージサービスの所有物だった。
正確に言えば無人の恒星間航行型サルベージ船、正式名称は第3下仁田丸。
「第3下仁田丸?」
その日本的すぎる名前に蒼穹は逆に困惑した。
公開されている情報にはこう記されている。
宇宙戦艦リーカが遭難して三千年以上の後、この宙域での開発が始まると銀河連邦はリーカの引き揚げ計画を発動させた。
そして九年前、下仁田特殊サルベージサービスはその銀河連邦の依頼からリーカの引き揚げ業務を請け負い、この惑星PLU75411142cに進出したのだ。
「これが真実って事なのか……」
そしてブローム達を苦しめて来たヴィーマの正体までも合わせて判明した。
ヴィーマはワークスレイブと呼ばれる実際にサルベージ作業を行う作業用スライムだった。無論、作業を請け負った下仁田特殊サルベージサービスの所有物だ。
合わせてヴィーマがこの星もスライムを襲った理由も判明した。その宇宙軍側の依頼内容には将来的に惑星開発の際、障害となるはずの現地で野生化したデッキスレイブの駆除も含まれていた。
それが隠される事も無く公の情報として開示されていたのだ。
「これがヴィーマがダイラタントに侵攻してきた理由だなんて……」
「神と侵略者が同根という訳か……」
その事実に蒼穹もナベカムリも思わず脱力する。
「さて、気が済んだなら回線を切るぞ~」
大久保が通信を切ろうとする。
「だいたいリーカは無人のまま放置されていたんだからな。通信が入る方がおかしいんだよ。全く、とんだ子供の悪戯だった……」
通信を切る間際の大久保の態度は一見、ふてくされている様に見えた。まるで下らない仕事中のトラブルに遭遇してぼやいている様な口調だった。
だが蒼穹はその態度に違和感を覚える。何かが引っかかる。
それにこの大久保正という男、初めて会った気がしない。まるでどこかで会ったような気がしてならない。
「ちょっと、待て! 通信を切るな、小久保正さんよ!」
蒼穹は大久保を呼び止めた。
疑問があるなら突き止めねば。




