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第61話

「さてこれをどうしたものか……」

 ナベカムリがつぶやくと蒼穹が答えた。

「宇宙戦艦っていうのなら動かしてみようぜ。頭の上のヴィーマをやっつけられるかもしれない」

「そんな、簡単に言ってもらっても困るぞ……」

 蒼穹の言葉にナベカムリは困惑する。ナベカムリにとって宇宙戦艦リーカは飽くまで神に近い存在だ。だが一方で蒼穹にとっては歴史的遺産であっても道具でしかない。

「とにかく動かそうぜ。上の友軍が全滅しちまう前に」

「それはそうだが……」

 ナベカムリは踏ん切りがつかない。神への冒涜、彼は信仰心に悩んでいた。

 そんな時、甲高い電子音が耳をつんざいた。

「何だ?!」

 その不意打ちに蒼穹の心臓が止まりそうになった。

 宙に浮かぶ光のモニターに緊急通信だと知らせる文字が浮かんでいた。

「誰からだ?」

 蒼穹が反射的に問いただすと緊急通信の下に新たな文字が浮かび上がった。

「下仁田特殊サルベージサービス? 担当、大久保正??」

 それは明らかに日本語の名称だった。

「何だ、そのサルベージサービスって?」

 疑問に思いながらも蒼穹の胸が高鳴る。

 もしかしたら蒼穹にとって四年ぶりの人間との会話になるかもしれないのだ。

 その後も受信を知らせる通信音は鳴り止む事はない。

 蒼穹は呼吸を整えると呼び出しに応じ事にした。

「もしもし……」

 蒼穹が通信に出ると光のモニターから先方の顔が映し出された。

 通信に出たのは教養を感じられない軽薄そうな真っ赤な髪の男だった。

「うわっ! 本当に繋がりやがった!」

 先方から声が聞こえた。明らかに驚いている様だ。

 それを聞いた途端、蒼穹も声を上げる。

「誰だ、アンタは?!」

「誰だって送った通信に名前が出てただろ? 下仁田特殊サルベージサービスぅ。その担当、大久保正ぃ」

「大久保? ……正? 確かに……」

 蒼穹は目の前の男の名を繰り返し読み上げる。

 だが未だに人間と口を聞いている事に驚きを禁じ得ない。

「んな事より、なんでリーカから人の声が聞こえるんだよ? 資料には艦は無人、乗員は全員脱出って書いてあっぞ」

 大久保正なる人物は横柄な態度で蒼穹に尋ねてきた。しかもどこか怠惰でやる気の様な物が感じられない。

 そんな男に蒼穹は答える。

「それは……俺はここにリーカの環で送り込まれたんだ」

「リーカの環?」

「あの召喚……いや、転送装置で過去から未来に……」

「あ~ん? バカか、お前?」

 大久保は馬鹿馬鹿しいとばかりに言い返す。

「確かにおかしな話に聞こえるかもしれない。だけど、これは本当なんだ!」

 その後、蒼穹は自分がこの世界に送り込まれた事実を大久保に説明した。

 しかし大久保は蒼穹の話を鼻で笑った。そして憎らし気にこう答えた。

「なるほど、そうか。判ったぞ……。お前、クラッカーだな?」

「クラッカーだって?」

「何か不正なアクセス手段を使って悪戯目的でこちらの回線に割り込んできた。そうだろ!」

 大久保の一言で蒼穹は怒りを覚える。クラッカーとは他人のコンピューターのシステムやネットワークに悪意を持って侵入し、プログラムの破壊やデータの改ざん、盗用を行う犯罪者の事だ。蒼穹にも高校生だった頃の常識としてそれ位の知識は持っていた。

 数万年後の未来のクラッカーがどんな者かは知らないが、早い話が目の前の大久保は蒼穹の話を一切信じていないという事だ。

「本当だ! 本当に俺はこの星に過去から召喚されたんだ! 四年前、このスライムだらけの惑星に!」

 蒼穹は懸命に訴えた。同時に腹の中で煮えたぎるような憤りを覚える。せっかく目の前に人間が現れたというのに自分の話を信じてもらえない。それどころか犯罪者扱いだ。

 そして嘆く。どうして四年ぶりに会えた人間がこんな下らない男なのだと……。

「これが数万年後の未来人だって? 何の進化もしていないじゃないか……」

 だが今は堪えなければならない。結局な所、自分の存在が他の人間に伝わる為にはこの大久保を通さねばならないのだ。

 だが何度、訴えても大久保は真面に取り合おうとしない。

「ヘイヘイ判ったよ。全くしょうがねえなぁ……通信が入ってきたと思ったらクラッキングで悪戯かよ。居るんだよなぁ、そういう奴が……」

 その態度に蒼穹は眩暈を起こす。

「四年ぶりなんだぞ……四年ぶりにこんな男が出てくるなんて……」

 ここに来ても自分は神の悪戯に振り回されっぱなしだ。

 蒼穹の高揚感が瞬く間に冷めていく。

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