第59話
だが幾ら調べても何もない白壁がそこにあるだけだ。
ダイラタントの神話では神様は天空からこの世界に降り立ちスライムを作った。その容姿は人間と同じくしブローム達はその人型を模して神に近づこうとしたと記述されている。
だが神が人の形をしていた理由ついては何も記されていない。
「全ては神の御心の示すままにか……」
蒼穹は独りつぶやいた。
しかしそれはブロームに対してだけではない。その御心があって蒼穹はこの異世界に召喚されたのだ。召喚は自分の意志とは全く関係なかった。そして自分がこの世界に堕とされた理由は未だに謎のままだ。
「結局、ここに居る意味は自分自身で見つけ出す……否、作り出すしかなかった」
「誰もがそうだ。神が都合よく己の居場所を与えてくれる事などあり得ない」
「しかし何もないな……何か接触出来る手は無いかな?」
考えた末、蒼穹は声を上げた。
「おーい! 誰か居ないか? 神様ってのが居るんなら返事しろ~」
すると蒼穹の目の前の壁に急に穴が開いた。穴の向こうでは通路が続いており先を明るく照らしている。
「俺の声が天に通じた……」
「神が我々の心に答えて下さったのだ……」
「進むぞ。立ち止まっていてもしょうが無いからな」
そう言うと蒼穹は通路の奥に向かって歩き出した。
暫く神の体内を歩き続けると何もない壁は様相を一変させた。
蒼穹の背丈の数倍の空間が出現したのだ。
しかも広大な空間の内装は一様ではない。天井も壁も床も直径五メートルほどの八角形の文様の装飾が飾られ無数に敷き詰められていた。
蒼穹にもナベカムリにもその八角形の文様には見覚えがある。
「これってリーカの環じゃないのか?」
「その様だな……」
「それもそこらじゅうに山ほどあるなんて」
その光景に蒼穹もナベカムリも驚かされっぱなしだ。
「幾つかは使われた形跡があるな。だがほとんどが新品の様だ……」
「でも、これだけの数がいっぺんに動き出したら……」
「誰も知らない世界が誕生するだろうな」
二人はレリーフの間を通り過ぎ奥へと進んでいく。道はその先も続いていたからだ。
やがて通路は行き止まりの白い壁に阻まれた。
蒼穹が壁に触れると再び壁に穴が開いた。
蒼穹が穴を潜ると最初に見たのと同じような球面の白い空間が現れる。
ただ空間には空中で浮かぶ白い椅子が中心に一脚、据えられていた。
椅子はまるでリクライニングシートの様な造りをしておりデザインも三次曲線が多用され極めて未来的だった。しかも蒼穹の様な人間がぴったりと座れるサイズだ。
「神祖リーカの玉座か……」
「ちょっと待て。整理させろよ」
「我々は神祖リーカに取り込まれた。故に、この空間を構成している物体が神そのものだと理解していた」
「ここは神の体内だって思ってたんだよな」
「だが目の前の椅子は何だ? ここに誰かが座っていたのか?」
「……と、すると神祖リーカの本体はこの椅子に座っていた何者かであって、俺たちを取り込んだのは神祖リーカの……」
「器?」
「どちらかというと乗り物って感じじゃないか? そしてここはその操縦席」
蒼穹の大胆な推理にナベカムリは息を飲む。
蒼穹が椅子に近づいた。
「どうするつもりだ?」
「座ってみせる。何かリアクションが返って来るかもしれない」
「召喚物の書物の中に記されていた処刑用の電気椅子という可能性もあるぞ」
「その時はその時だよ。ナベカムリ」
蒼穹は宙に浮く椅子に座るとそのまま体を沈めた。
座り心地は固く冷たい。まるで何年も人を座らせていなかった様だ。
「おーい、返事しろ~」
蒼穹が叫ぶ。