第17話
そこへ外出していたユーグレナが戻って来た。
「どうしたの? 家の中から叫び声が聞こえたけど……」
だがその時には既に蒼穹が返された覆面を被り直した後だった。
「いや、その別に何も……」
「ごめんなさい。ウチのペラネマがお客様に阻喪をして」
「阻喪?」
「ユーグレナ、ちょっと席を外すから後はお願い」
アニソネマは子供達を連れて部屋を出て行った。
「何があったのですか?」
ユーグレナが蒼穹に問い直す。
「実は……」
蒼穹は大事にしたくはないと思ったが結局、ここであった事をユーグレナに打ち明けた。
「大変だわ! こんな事が外に漏れたら!」
ユーグレナは慌てて姉の後を追うとする。
「いや、ちょっと待ってくれ、ユーグレナ!」
蒼穹が慌てて止めた。
「その……もう大丈夫だと思うんだ」
「大丈夫? どうしてですか? あなたは正体を見られたのですよ!」
「お姉さんがキチンと子供達に言い含めると思うんだ。ここであった事は外で言っては駄目だって」
「そうでしょうか?」
「そうだよ。お姉さん、俺の素顔見た時、凄く冷静だった。あの人はとても賢い人だ」
「賢いって……ウチの姉がですか?」
「うん、だからもう心配ないと思うよ」
「はぁ……」
ユーグレナは蒼穹の言葉にいぶかし気な表情を浮かべる。
「そんな事よりも用事は終わったの?」
「連絡員に託て来ました。屋敷の衛兵隊がここまで迎えに来てくれるはずです」
「それまでは?」
「ここで待機します」
暫くしてユーグレナの思惑通り衛兵隊が迎えに来てくれた。
だが鎧姿での参上でご近所が騒然となる。
「おバカ……目立たないように平服で来いって言ったのに」
ユーグレナが聞こえないように毒吐いた。
だがこれで蒼穹の身の安全は確保された。同時にユーグレナの姉とは別れる事になる。
「いろいろとお世話になりました」
「こちらこそキチンとしたおもてなしも出来なくて」
平然とした中での別れの挨拶だった。一方で子供達の姿はどこにも見えない。
「よほど怖い思いをさせたんだな……」
蒼穹は気の緩みを後悔する。そしてユーグレナも蒼穹に止められたにも関わらず姉に今日あった事は他言無用だと言い含めた。
「結局、言ったんだ」
「当然です」
「信用してあげればいいのに。血を分けた姉妹なんだろ?」
「それとこれとは話は別です。それとスガイソラは姉の事を賢いと言っていましたがそれは買いかぶりすぎです」
「そうかなぁ」
「そうですとも。姉はただ、今の生活に波風を立てたくないからあなたの素顔を見ても何も感じなかった振りをしただけです。そういう人なんです、姉は」
「だったら残念だな……何かわだかまりを残したまま別れるみたいで」
「気にしないで下さい。あなたは何も悪くありませんから。だけど気を付けてください。今のあなたはその些細なミスが命取りに繋がる可能性があるのですから」
ユーグレナは蒼穹にも釘を刺す事も忘れなかった。
宰相宅に帰った後、ユーグレナはプロテウスに全てを報告した。そしてほんの僅かばかり思案した後、少年宰相は蒼穹とユーグレナの前でこう言った。
「四日ほど待て。こちらにも考えがあるから……」