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第14話

 暫くして二人は身を隠せそうな小さな脇道をやっと見つけた。

「あそこなら何とか身を忍ばせそうです」

 蒼穹はユーグレナと共に脇道に入った。脇道は左右が塀に囲まれ蒼穹の体がやっと通れる位に狭かった。だがゴミ一つ落ちていない為、不快さはない。

「それでこれからどうする? 屋敷に今すぐにでも戻らないと……」

「それは無理です。特殊戦の別動隊が屋敷の周辺を見張っている可能性があります」

「じゃあどうすんのさ?」

「夜まで待ちます。何とか屋敷と連絡が取れればいいのすが……」

 そう説明しながらユーグレナが四つん這いになって身を屈めた。

「やれやれ持久戦か……」

 蒼穹も彼女の後ろでそれに倣った。

「近くに特戦隊の気配はありません。上手く捲いた様です」

 周囲を何度も確かめながらユーグレナが答えた。

「そ、そうなんだ……それは良かっ……いっ!」

 一方で蒼穹の声が突然、上擦った。その声の響きには明らかに動揺の色がうかがえる。

「どうかしましたか?」

 声に気付いたユーグレナが聞き返した。

「いや別に……良かったよね、敵を捲けて……」

 しかしそれを蒼穹は必死に隠そうとする。

 だが蒼穹の動揺は止まらない。それどころか時間が経つにつれ胸が高鳴っていく。

 胸の高鳴りの原因。それは鼻先で身を屈めるユーグレナの突き出されたお尻だった。

 丈の短いミニスカートの下から丸見えになった綺麗なお尻。その白い下着に包まれた双丘は半透明のオレンジ色をしていても極めて官能的な曲線美を描く。

 それをユーグレナは無意識のまま晒していたのだ。

 蒼穹は目のやり場に困ってしまう。

「ちょっとユーグレナ、見え過ぎだよ……」

 と、言いつつ蒼穹は視線を逸らせない。

 一方で湧き上がる高揚を押さえようと自分に言い聞かせる。

「違う! ユーグレナは異種族だ。スライムであって人間とは違うんだ。なのに……」

 なのに今、彼女のお尻は自分の心を釘付けにしている。そして高揚は理性を跳ね除け、更に押さえ難い衝動へと取って代わる。それは目の前のお尻を触りたいという性的衝動だった。

 無意識の内に手が前の方へと伸びていく。

 そして気付いた時には丸いユーグレナのお尻を右手でゆっくりと撫で回していた。

「ヒギャ!」

 ユーグレナが素っ頓狂な悲鳴を上げた。不意打ちにお尻を触られた事で彼女の背筋にゾワゾワした感覚が走り抜ける。

「な、何をしてるんですか!」

 ユーグレナは慌てて振り向くとお尻を触ったままの蒼穹を厳しい表情で睨み付けた。

「えっ! うえっ? ええ!!」

 蒼穹が慌てふためきながら右手を引っ込める。そして思わず本音を漏らす。

「いや、何ていうか何となく……そこに可愛いお尻があったから、つい……」

「ついって……わざと触ったんですか?!」

「別にワザとじゃあ……。スミマセン……」

 彼女の剣幕に蒼穹もただ平謝りするしかない。無意識でも触った事には変わりないのだ。

 一方でユーグレナの表情は怒りと羞恥が入り混じり困惑している。

「エッ、エッチ! お、女の子のお尻に触るなんて最低です!」

「ゴメン……やっぱり、スライムでも触るのは駄目なんだね……」

「当たり前です! 私だったから良かったものの、他の女の子だったら警察沙汰になりかねませんから! これからは気を付けて下さい!」

「はい、重々、反省します……」

 恥ずかしがるユーグレナの後ろで蒼穹は頭を下げてみせた。

 だがその頭の中では先ほど触ったお尻の触り心地を繰り返し思い返していた。とにかく、スベスベして柔らかく生暖かい。人肌よりもプルプルとしており触った途端、細かく揺れ動いた。それは蒼穹が初めて体験する感触だった。

「女の子のお尻って触ったらあんななんだ……」

 そして今もかわいいお尻は突き出されたままだ。

 そんな中、気を取り直したユーグレナが蒼穹に向かって言った。

「やっぱり移動しましょう。ここは隠れるのに適していません」

「どこに行く? 警察があるのなら保護してもらうってのも手だけど?」

 お尻から目を離した蒼穹がユーグレナに聞き返す。

「それも考えましたが、公共機関には御側衆の手が回っている可能性がありますし、何よりあなたの存在は一般には秘匿されています。だから別の方法を取るつもりです」

「当てはあるの?」

「ノームの居住区の下町に行きます。いいですね」

 蒼穹はすぐに承知した。それに屋敷の外、とりわけノームの居住区には蒼穹も行ってみたいと思っていた所だった。

「では下町に向かいます。それと覆面は持っていますね。あなたの素顔は人目に付きますから。それと、道を歩く女の子のお尻には絶対に触らない様に。イイですね!」

 蒼穹は言われるままに覆面を被ると触られた事を根に持つユーグレナの背中を追った。

 王都の居住区は支配層と労働者層の二つの町で分断されていた。それを仕切っているのは黒い巨石が積み上げられた高い城壁だった。

「城門に衛兵が詰めてる。あそこを通るのはけっこう骨だぞ……」

 多分、覆面姿の蒼穹は呼び止められ取り調べを受けるはずだ。

「大丈夫、私に任せて。こちらにはこれがありますから」

 そう言いながらユーグレナが取り出したのは掌に収まるほどの金属製の通行手形だった。

「それに城門はこちら側から向こう側に行くのはそれほど難しい事ではありません」

「その逆は?」

「文字通り壁となって全てのノームの前に立ち塞がります」

「意味深だね……」

 そしてユーグレナの言葉に嘘は無かった。城門の衛兵に彼女が通行手形を見せると二人はあっさりと下町の方に入る事が許された。

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