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【はやラジ!】第4回 ゲスト:茜坂マリ【メモリーズ4期生/早川はやて】

 あたしとアヤカの関係は1つ歳の離れた姉妹だ。

 この変わることの無い事実に満足できなくなって、どれくらい経つだろう。

 今はもう血の繋がった姉とキスをすることに忌避感もない。そんなことよりもアヤカと触れていたい。離れないで。知らない貴女にならないで。

 だから、あたしが知っているアヤカと変わっていないか確かめるためにキスをする。

 キスをしている時間だけでも、アヤカの世界をあたしで独占していたい。

 あたしの大好きな人と明確に繋がっていたい。




「私とあなた……花菜との関係を一言で表すとしたら?」




 一言でなんて言い表せるわけないのに、アヤカの意地悪。




「あなたから私に直してほしくないところは?」




 あたしのことを大切に思ってくれているのを知っている。妹としてだけど。




「あなたから私に直してほしいところは?」




 でも妹扱いはもう嫌なんだ。アヤカの妹っていう特別より、もっと上の特別になりたい。




「あなたから私の印象は?」




 あたしのことを振り回す、世界で1番愛おしい人。




「あなたは、私をどこで知りましたか?」




 そんなの、最初からに決まってるでしょ?

 あたしがあなたを好きだったのも、きっと最初から。













 はっきりとした記憶があるのなんて幼稚園とかそのくらいからだけど、その頃からお姉ちゃんは1つしか歳が離れていないとは思えない程大人びていた。

 他の子とケンカなんてまずしなければワガママも言わないものだから、先生たちは手のかからない良い子どころか、気味の悪い子扱いしていたのをよく覚えている。

 その頃からお姉ちゃんの後ろを付いて回っていたあたしは、他の子たちが外で走り回っている時もお姉ちゃんと一緒に中で本を読んでいた。大勢の知らない子たちより、1人の血の繋がった姉さえいれば何もいらなかった。


 ただ、先生たちはあたしがお姉ちゃんと違って普通の子だということを見抜いていたらしい。何度も他の子たちと一緒にお外で遊んできたら、と言われた。

 その度にあたしは、お姉ちゃんと一緒じゃなきゃ嫌だと言っていた。今思うと、この頃からあたしはお姉ちゃんに依存していたらしい。

 それを見かねたのか、それとも先生から何か言われたのか。お姉ちゃんに言われて、1日だけ他の子と一緒に外で遊んだ。

 本当はお姉ちゃんと一緒がよかったけれど、外で元気に遊んでいる花菜が見たいと言われたら、単純なあたしは張り切って外に駆け出したのだ。

 その1日であたしは幼稚園の子たちの中心人物になってしまい、結局その後卒園するまでお姉ちゃんと一緒にいることを周りが許してくれなくなった。





 お姉ちゃんに1年遅れて小学校に入学して、あたしはお姉ちゃんの意思疎通係を任命されることになった。

 小さな社会生活を送ることになる小学校では、1人異端者がいると全体が迷惑するらしい。

 あたしが入学するまでの1年の間で、先生たちは相当まいっていたのだろう。あたしが呼ばれて通訳してあげると、大層感謝された。

 あたしとしては、お姉ちゃんは確かにちょっと言葉足らずなだけなのに、なんで誰もわからないのかが不思議でしょうがなかった。

 だから、あたしがお姉ちゃんのことを1番よくわかっていることが当たり前だけど嬉しかったし、お姉ちゃんをおかしいもの扱いする社会なんて出たくないと思った。

 だけどお姉ちゃんは、あたしが小学校で誰かと遊んだり話しているところを見ると嬉しそうだったから、頑張って普通を演じた。

 お姉ちゃんが喜ぶから友達もたくさん作ったし、お姉ちゃんが喜ぶから先生たちにも良い印象を与えた。勉強も運動もクラス委員も、とにかくなんでもやった。友達や先生が褒めてくれるのなんてどうでもよかったけど、お姉ちゃんが褒めてくれるから全部頑張れた。





 中学生になると、あたしの周りでも異性を意識するのが当たり前になってきた。

 ちょっと前までは日曜朝の魔法少女アニメだったり、昨日の夜見たテレビの話をしていた友達が、今は男の話しかしなくなってしまった。

 もちろんあたしだって、男という存在がいるのは知っている。

 毎日父親と顔を合わせているし、小学校の高学年で性教育も受けたのだから。

 でも、あたしにとっては男性がよくわからなかった。


 1番身近な男性である父親は除外するとして、自分の頭の中では男性の顔に白い靄がかかっているみたいな、何とも言えない違和感が常にあった。

 誰かがかっこいいとか、そのくらいならまだ問題なかった。それが付き合いたいとかに話が発展すると、自分の頭ではエラーを起こして理解不能になる。

 それは異性と付き合うなんてまだ早いとかいうお堅い思考でも純情な思考でもなく、ただ自分の常識にはない話だった。彼女たちは自分と違う世界の住人だった。

 しかし世間から見たら、違う世界の住人はあたしの方なのは明確で。社会は自分と違う存在を許してくれないことを知っていたから、あたしは普通になろうと必死だった。





 初めてあたしが普通じゃないと知った日。

 その日は中学が休みで、あたしは特にやることもなくスマホを弄っていた。

 友達との何も中身のないやり取りも終え、姉の部屋にでも行って甘えようかなと思っていた時。そういえば姉は興味がある異性がいるのかと、ふと気になった。

 もちろん姉に彼氏がいないことは知っているが、誰か好きな異性がいるかもしれない。

 そう思うと顔の見えない架空の姉の片思い相手に嫉妬心が沸き上がってきて、居ても立ってもいられず直ぐに姉の部屋へ突撃した。

 そこであたしの考えは杞憂だということが即判明し、いつも通り何をするわけでもなく姉に甘える休日を満喫した。

 そしてその日の夜、姉に好きな異性がいないのはおかしいことじゃない、と言われたあたしはネットで『異性 好きじゃない おかしい』みたいなことを適当に検索して出てきたネット記事を読んでいた。

 そこには自分の悩みと同じような悩みを持った人がそれなりにいて、思ったより世界には色んな人がいるのだと思った。

 いくつか記事を読んでいると、関連にあった同性愛の記事が目に入った。

 そういえば好きな異性がいないかは考えたことがあったけど、好きな同性がいないかは考えたことがなかったことに気付いたあたしは、興味本位でその記事を閲覧してしまう。

 そこには同性愛の世間からの風当たりの強さ、普通ではないこと、それでも負けないでほしいみたいなことが書いてあった。


 正直言って、その時は他人事の気分だった。

 異性愛者は周りにたくさんいたが、同性愛者は見たことがなかったから画面の向こう側、違う世界の住人だった。

 違う世界の住人といえば、自分はどうなんだろうと考えたのがまずかった。

 ——あたしにとって1番好きな同性は誰? そんなの姉に決まっている。

 ——じゃあ姉と付き合える? 普通じゃない。でも付き合うのは嫌じゃない。

 ——女同士で付き合うのが普通だったら付き合えるの? 間違いなく。

 ——手を繋ぐことも、デートするのもできる? 普通の姉妹でもできる。

 ——キスや性行為は? ……想像できない。けど、嫌じゃない。

 ——姉があたし以外と……


 そこまで考えて、思考を打ち切った。もう自分の中で結論は出ていたから。





「そっか……あたし、普通じゃなかったんだ……」





そして、その日からあたしは姉を名前で呼び始めた。













「はーい、みんなー! こんばんはやてー! メモリーズ4期生の早川はやてだよー!」

『こんばんはやてー』『こんはや』『こんはやー』『鼓膜の替え用意してきたゾ』『俺は忘れたけどもう何も聞こえないから問題なかった』


「今日は4回目の【はやラジ!】。早速だけど今回のゲストの方、自己紹介をどうぞ!」

「どもー皆さん、メモリーズ2期生の茜坂マリでーす。今日はよろしくお願いしまーす」

『どもー』『どもでーす』『相変わらずのローテンション』『はやちゃんとの温度差で風邪ひくわ!』『マリちゃん、昨日鳩ではやちゃんに負けないテンションで行くって呟いてたんだけど』『確かにプラスとマイナスに振り切れてるからプラマイゼロだし負けてないな』『謎理論助かる』





 思い出したくもない高校生活を終えると同時に、あたしはこのヴァーチャル世界に足を踏み入れた。

 アヤカがいない高校生活なんて何も記憶にない。

 ただアヤカを心配させない為に通い、アヤカとの話題の為に友達を作り、アヤカに褒めてもらう為に優秀な生徒であり続けた。

 あたしが高校生活3年目になった時、アヤカは高校を卒業して家の中で時間を浪費してた。

 あたしとしては、安全な家の中から出てまた傷ついて帰ってくるなんてもう御免なので、このことに問題なんてなかった。どうせ来年にはあたしも卒業だし、アヤカは反対するだろうが高卒で働くことに不満もない。

 そう思っていた時に、あたしは『Virtual Youtuber』に出会った。





「いや、今日はけっこうテンション高いつもりなんだけど? ほら、いえーい」

「いえーい!」

「私けっこう【はやラジ!】好きだから、楽しみにしてたよー。第1回だけはアーカイブだったけど、2回目からはリアルタイムで見てるし」

「えっ、本当ですか!?」

「ほんとほんと。3回全部見たけど、やっぱ1回目のユキとの回が好きかな」

『俺も初回すこ』『第1回にして伝説の回』『はやちゃんが9割しゃべってた記憶』『限界はやちゃんすこだった』『灰猫ユキとそのオタクの配信だった』『憧れて業界に入ってきたんだし、そりゃコラボできたら限界になっちゃうよね』





 最初はアヤカがハマっているらしいくらいの認識だった。

 アヤカがそれになりたいと言ったことで本格的に興味がわいた。

 そして私は、【灰猫ユキ】のファンになった。





「は、恥ずかしい……じゃ、じゃあ視聴者の皆さんからあたし達宛に届いたマシマロを消化していきますね!」

「はーい」

「えー、あたしとマリ先輩の共通点と言われるとまずはJKというのが思い浮かぶと思いますが、実は初コラボ配信がユキちゃんなんですよね。そこで、あたしたちがユキちゃんの初コラボした時の感想が聞きたいです」

『話題逸らしたな』『話題逸らした(逸れたとは言ってない)』『実は初コラボがユキちゃん同士(周知の事実)』『な、なんだってー』『メモリーズのユキちゃん好きライバー2トップ』『この2人がコラボする時点で話題がユキちゃんになるのは知ってた』





 高校で離ればなれになってしまったアヤカとまた一緒に居たくて。

 ファンになった灰猫ユキと一緒に遊びたくて。

 あたしは【早川はやて】になった。





「え、そうなんだ。初めて知った」

「いやいや、マリ先輩はユキちゃんと初コラボ同士だったじゃないですか」

「自分のは知ってたけどね。早川ちゃんはユキ以前に誰かとコラボしてるものかと」

「実はあたしもユキちゃんが初めてなんですよ、お揃いですね!」

「んー、初コラボした時の印象って言ってもなー、今とそんなに変わってないよ? 最初から子猫みたいで可愛いなって感じ」

『まぁ猫だし』『間違ってないな』『ヤンキーマリちゃんが雨の中捨て猫ユキちゃんに傘差してるファンアートすこ』『マリユキコラボの時はユキちゃんがマリちゃんにちょっと甘えてる気がする、悪い意味じゃなくてね』『姉妹とか友達ってより飼い猫と飼い主って考えると確かに』





 初めて【はやて】として【ユキちゃん】と配信した時は、ただ純粋に嬉しかった。

 また一緒だね、もう離れないよと。

 それが別の感情に変わったのは、ユキちゃんが他の配信者とコラボをしているのを見た時。

 他の配信者——茜坂マリのことは、以前からアヤカから聞いていて知っていた。

 ユキちゃんの配信は当然全部視聴済みだから2人のコラボも見たことがあったし、事務所の先輩なんだから当たり前に知っていた。

 でも、画面の向こうにいる【あたし】以外と一緒にいるユキちゃんと、それを見て感情が抑えきれない【あたし】のことは知らなかった。





「……やっぱり、あたしにとっては憧れのお姉ちゃんみたいな人ですかねー!」

「最初はびっくりしたよ、あのユキに懐いてくる可愛い子がいるんだもの。しかもユキも満更でもなさそうだし」

「ユキちゃんってけっこう寂しがり屋ですからねー」

「そうそう。雨の中で段ボール箱に入ってても澄まし顔してても、傘差してあげると不安そうな顔して見てくるの。んで、連れて帰ってお風呂入れて乾かしてご飯あげると懐く」

「ここだけ聞くとユキちゃんがちょろく聞こえるなぁ……」

「実際ちょろくない?」

「そのちょろい人に翻弄されているあたしは……?」

『マリちゃん>ユキちゃん>はやちゃん』『ユキちゃんいないところで散々言われてて草』『ユキちゃん、鳩で私はそんなにちょろくないって言ってて草』『実際マリちゃんの人柄もあるでしょ』『マリちゃんはバランスとるの上手いからな、警戒心強い猫相手には強い』





 その後、あたしは絶対に超えないと誓っていた一線を越えた。

 アヤカに嫌われるから。普通じゃないから。そう思って避けていたのに。

 愛しい人との行為は止まらなかった。あたしだけが知っているものが欲しかった。

 全部終わった後……あたしは全てを失う覚悟をしたが、現実は現状維持。

 まるで何もなかったかのような顔をした姉と翌日出会ったときは、一瞬あたしの頭がついに都合の良い夢を見出したのかと思った。

 しかしそんな頼りにならないものより、灰猫ユキの配信履歴とアヤカに残したあたしの跡が、昨日の出来事は現実だということを雄弁に語っていた。





「これ以上はあたしにダメージが来るだけなので次のマシマロに行きたいと思います……マリ先輩、先日のライブイベントお疲れさまでしたー! ソロ曲もユキちゃんとのデュエット曲もメモリーズ2期生での合唱曲も、全部最高でした! 気が早いですが、はやちゃんのライブも楽しみだよー! ……気が早いどころか、まだイベント告知すらしてないんだけどね!」

「ありがとねー」

「あたしも現地には行けなかったんですけど、ネット中継で見ましたよ! もう皆さん最高でした!」

「あたしもまー、流石に練習頑張ったけどね。たぶん1番ユキが頑張ってたんじゃないかな」

「……そ、そうなんですか?」

「うん、いっつも居残りで練習してた。そんであんまりにも根詰めすぎだから1回止めたら、バレないように隠れてやり始めたんだ。その時は結局、私が首根っこ掴んで連れてきて柚子ちゃんパイセンに叱ってもらったよね」

『草』『柚子ちゃん強い』『1期生の頼れる先輩、流石だぁ』『あれでロリじゃなかったらなぁ』『は? ロリだからいいんだろ』『もしもしポリスメン?』『ゆずとも失格』『柚子ちゃんに叱られるの羨ましいんだが』『わかる』『わかる』





 ユキちゃんがあたし以外とコラボをする度に、あたしは行為を繰り返した。

 何も言われないのを良いことに、欲望をぶつけた。

 あちらとこちらの言い分は違うからいっつも言い争いになるし、あたしがいつも言葉に詰まって強硬手段にでるけど、アヤカも抵抗しないし合意なはず。

 終わった後は自己嫌悪したりもしたが、こんなことをされても構わず他の誰かとコラボをするユキちゃんを見ると誘われているのかとも思った。

 しかし何回も続けるとそれが間違いで、ただ気にされていないこともわかった。

 だから、ユキちゃんが誰かとコラボした後はあたしとのコラボを取り付けた。

 誰のものか匂いをつけておかないと。取られてからじゃ遅いことは、よくわかったから。

 もう、あたし以外が心の中にいることは、よくわかったから。





「そしたらユキったらしょんぼりしちゃってさ、叱ってる柚子ちゃんパイセンまでオロオロしちゃってんの。もーウケたよね」

「……」

「あ、あんまウケなかった? ごめんね?」

「い、いえ! ただ叱られてるユキちゃんがあまり想像できなくて……」

「あー、ユキは良い子だからね。たぶんあんま怒られたことなかったんじゃないかな。そっから柚子ちゃんパイセンに懐くようになってたし、嬉しかったんだろうなー」

『ゆずユキ?』『裏話助かる』『ユキちゃん鳩でめちゃくちゃ怒ってるんだけど』『わざと配信で言わなかったのに、マリは余計な事言わないで。らしい』『そりゃ無茶して先輩に怒られたことなんて言いたくないわな』『でも柚子ちゃんには叱られたい……』『柚子ちゃん、ユキちゃんに怒られて嬉しかったのってリプするのはやめてあげて』





 アヤカが怒られたことないなんて当たり前だ。

 だってアヤカはあたしにとって理想で、憧れで、最強だったんだから。

 アヤカが無理や無茶をしたところなんて見たことないし、弱音なんかも聞いたことない。



 なんでこの人たちはあたしの知らないアヤカを知ってるの? 

 なんであたしがしてないことをしているの? 

 なんであたしがアヤカの初めてじゃないの? 

 なんであたしが、あたしだけが妹なのに。

 あたし以外はアヤカの特別じゃないはずなのに。アヤカの特別はあたし以外いらないのに。

 先輩だからってアヤカを叱っていいと思ってるの?

 妹であるあたしですら、したことがないのに?

 嬉しいけど、羨ましいけど、妬ましくて、憎い。

 悔しい。悔しい。

 苦しい。



 だからもう、手段は選ばないことにする。





「……はい、そろそろいいお時間になってしまいました! 気付いたらユキちゃんの話をしていた記憶しかないですがマリ先輩、今日は1時間ありがとうございました!」

「うん、こっちこそありがとー。ユキトーク楽しかったよ。今度は早川ちゃんの話も、聞かせてほしいな」

「機会があれば、ぜひよろしくお願いしますね! マリ先輩、何か告知とかありますか?」

「私は特にないでーす」

「じゃあ、あたしから1つだけ……今日は最後までこの人の話題でしたね、近日中に灰猫ユキちゃんとの初オフラインコラボがあります!」

『マ!?』『ユキちゃんのオフコラボって初じゃね?』『この前のライブイベ除けば初』『ついにオフラインきちゃー!』『有給取った』『まだ日程公開されてないのに、どうやって有給取ったんですかね……?』『未来予知だゾ、成功率は1割無いけど』『節子、それ未来予知やない。ただの勘や』『今からわかる、これは伝説の配信になる』『はやユキ勢は全員正座して見ます』『当日までに徳を積んでおきます』


「え、びっくり。あたしもユキとオフコラボしたい」

「マリ先輩は初コラボ取ったんですから、初オフコラボは譲ってくださーい!」

「うーん……まぁ、後でちゃんとしてくれるならいいかな」

「さてさて、それでは皆さん。本日お送りしたのはメモリーズ4期生、早川はやてとー!」

「茜坂マリでした。おつはやー」

「おつはや!」

























「ねぇ、花菜」

「珍しいね、アヤカがあたしの部屋に来るなんて。普通はあたしがそっちに行くんだけど」

「うん、どうしても話したいことがあって」

「へぇ……なに?」

「私、オフラインコラボするなんて聞いてないんだけど」

「知ってる。だって言ってないし」

「勝手に決めたの?」

「もう事務所と、あたしたちのマネージャーには許可取ってあるよ。日程だけ決めたら教えてくれって」

「マネージャーから聞いてないんだけど」

「家族って便利だよね。まさか妹が姉の許可を取らずに、こんな頼み事してくるなんて思わないでしょ」

「……私、オフコラボは」

「しない、なんて言わないよね? この前ライブで1期生と2期生の皆とはリアルで会ってるはずだけど?」

「それとこれとは……」

「別じゃない!」


「何も違わない! あの人達とできて、あたしとできない理由なんてない! 否定なんて聞きたくない! あたしとだって、はやてとだってできるでしょう!?」

「……」

「はやてと、あの人達の違いは!? 先輩と同期か、後輩かの違い? そんなの関係ない! いや、あたしにとってはあの人達の方が後から割り込んできたんだ! なんで、なんであたしが先じゃないの!?」

「……」

「そもそも、あたしはライブイベントなんて反対だった! 共演者とリアルで会わなくちゃいけないなんて、そんなの許せなかった! また、またアヤカが傷付くくらいなら、そんな……」

「花菜、私……」

「アヤカを傷付ける全てが嫌い! アヤカに擦り寄ってくる全てが嫌い! あたし以外でアヤカを喜ばせる全てが嫌い! こんな事を考えるあたしが、1番嫌い……嫌い!」

「私、はやてとオフコラボするよ」





 実の姉に姉妹間の愛情を超えたものを抱いている。

 それはきっと最初からで。

 自分は最初から普通じゃない。

 最愛の相手の幸せを喜べないそんな自分が、あたしは嫌いだ。




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