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お腹減ったーーーーーー!

ものすごく貧乏そうな少年だった。


目は『これ、目っていうの?』というくらい細い。まるでシャー芯くらいの細さだ。


体はガリッガリに痩せこけていて見るに耐えない。手も足もシャー芯のように細い。


まるで生きたシャー芯のようだ。というより、人間そっくりの生きたシャー芯と言った方が近いかもしれない。


きっとこいつが田中拓実ね! そうに違いないわ! だって田中拓実って感じがするもん!(全国の田中拓実様申し訳ございません。作者より)


「きゃ、きゃー! ごめんなさい! グラシャラボラスたちかと思って」

「グ、グラシャ?」

田中拓実は不思議そうな顔をして首を傾げた。


「いえ、なんでもないの。それより何の用かしら?」

このやりとりはもういいだろう。

「隣の部屋を借りているものですが、もう少し静かにしていただけませんか?」

そういえばかなりうるさく騒いでしまった。


「ええ。ごめんなさい。そうするわ!」

少年は会釈ともお辞儀ともいえないような仕草をすると去っていった。あいつきっと童貞ね。

(重ね重ねお詫び申し上げます。全国の田中拓実様申し訳ございません。作者より)


「ふー。よし! 行こう! お腹ペコペコ!」

私は勢いよく扉を開けると、いきなり扉の前にいた人の強靭な胸板に頭を打ち付けた。


「あいったー!」

「おっと。大丈夫かい?」

背の高いイケメンな金持ちそうなスーツお兄さんが私のことを助け起こす。こいつできる。


「ええ。私こそぶつかっちゃってごめんなさい。ところであなたは一体何をしていたの? 扉の前に突っ立って、延々と扉の木目を見るのが趣味なのかしら?」

「ああ! 正解だ!」

「まじか」


ちょっと引いた私の顔を見て、

「なんてな。冗談さ。ノックしようとしたら可愛い女の子が飛び出てきて僕の胸板にぶつかっただけさ」

「あら。可愛いなんて嬉しいわ。それで何の用? ナンパ?」

「いいや! 違う!」

違うのかよ。お兄さんは続ける。


「もう少しだけ声のボリュームを落としてくれるかい?」

「あー。そういうことね。さっきも言われちゃったわ! ごめんなさいね!」

そして、お兄さんは去っていった。きっとあいつが佐藤淳之介ね! 

絶対にそうよ! 佐藤淳之介って感じがするもん! 根拠はないけど佐藤淳之介に間違いないわ!(全国の佐藤淳之介様。どういたしまして。作者より)



私は踵を返し、食堂の方に向かおうとした。

すると、鈍い音とともにまた誰かとぶつかった。もうこの流れはあれね。

見なくてもわかるわ。どうせ高橋大輝でしょ? 名前を聞かなくてもわかるわ。

「あいたたたた」


私は自力で起き上がると、

「ごめんなさいね高橋大輝さん!」

目の前の高橋大輝に謝罪すると相手にせずにすぐに食堂に向かった。


高橋大輝の姿の描写は省くとしましょう。だって高橋大輝としか言いようがないもの。

普通に高橋大輝って感じよ。苗字は高橋で名前は大輝。


皆さんも頭の中に高橋大輝を思い浮かべてみて! それがそのまま正解よ!

「なあ君!」

高橋大輝が私に向かって何かを叫ぶ。


どうせうるさいからもっと静かにしろってことでしょ。


走り去る私の後ろ姿に、高橋大輝は、

「うるさいからもっと静かにしろっ!」

「はーい! ごめんなさーい!」

このやりとりにうんざりしたので適当に謝罪してダッシュで食堂に向かった。


宿の中の通路を曲がり、通路を縫うようにして駆動していく。

景色が矢のようにとび、背後に流れ見えなくなる。もうお腹が空いてペコペコだった。


フロントに到着すると、さっきしこたま怒られたことを思い出した。


従業員の顔を見ないようにして、フロントを駆け抜ける。

もう目の前が食堂だ! やっと食える! お腹が空いて空腹だ! お腹が減りすぎて腹痛が痛い! 私は大声で、

「お腹減ったー! いっただっきまーすっ!」

と言って、フロントの隣の部屋に突っ込んでいった。


そこはリネン室だった。

「どこここ?」

そして、周囲の布団やベッド類を舐めるように見渡して、ここがリネン室であることを確認した。


「うん。見間違いじゃない。ここはリネン室」

私は踵を返し、先ほどの従業員の元に向かった。

「あの、食堂ってどこですか?」


「食堂? 食堂なら反対側だよ。っていうか今、リネン室の中に『お腹減ったー』って言いながら突っ込んでいったよね?」

「はい」


「君はひょっとしてバカ?」

「はい」


「あとさっきからうるさいって苦情がすごいんだけど」

「はい」


「もういいから。さっさと食堂に行きな! 食堂は今来た道を全部真逆に戻ってそのままずーとまっすぐ真逆に行けば着くから!」

「はい」


「もう迷子になるんじゃないよ? いいね?」

「はい」


「っていうか昨日も泊まったよね? なら食堂の位置も知っているはずだよね? ね?」

「はい」


そして、私は死ぬ思いをして食堂に着いた。うう。惨めだ。


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