X JAPAN
さて、いよいよ日本ビジュアルヒストリーも最終回となった。
最終回に相応しいバンドは……X JAPANである。
アルファにしてオメガ。
始祖にして頂点。
日本が誇る無敵のバンドである。
しかし、困ったことに有名すぎて最早語ることがない。
リーダーの林氏が朝の山手線で座席に自宅のベッドのように横たわって寝続けたことや、ギターの石塚氏が居眠りをして山手線を100周した話など語るまでもない。空腹に耐えかねてパンを万引きしたメンバーもいれば、小銭と引き換えに親に卒業アルバムなどを晒されたメンバーもいる。
そんなXがどうやってデビューしたのか。
ライブハウスはいつも満員? スカウトの引く手は数多?
そしてインディーズレーベルは『エクスタシーレコード』
リーダー林氏の母親が出資し設立するに至った会社である。いや、正確には休眠状態であった実家の呉服屋を業務変更して作り上げたのだ。
そして林氏はなんと!レコードのプレス工場、印刷工場、出版社、写植工房、レコード店などを直接訪ね歩き、作るところから売るところまでを体で学んでいったのだ。
ちなみに林氏はインディーズレーベルだけでなく、メジャーレーベルも所有している。
GLAYも所属していたプラチナムレコードである。それはさて置き。
ここからXのみならず、エクスタシー軍団の快進撃はスタートしたのだ。
Xに関する学会員の原初の記憶は紅白歌合戦である。当時は興味がなかったため「ふーん、紅白にこんなのが出てるんだー」ぐらいのものだった。
ちなみにその時の曲は『silent jealousy』だった。
興味がないはずなのに曲名からメロディまでしっかり覚えている。そんなインパクトが彼らにはあるのだ。
そして本格的にファンになったのはここから数年後『week end』を聴いた時だった。
石塚氏が弾くリフレインするイントロ。聴いた瞬間から引き込まれてしまった。
ミラシラ ミラシラと繰り返すだけなのに恐るべきインパクト。
そこに松本氏がDから切り込むパワーコード。まさに切り込むような勢いとパワーなのだ。
そこに沢田氏がハイフレットから流れるようにベースを重ねる。
そして林氏の叩き込むようなドラムに畳み込まれるのだ。わずかなイントロにどれだけのエネルギーが込められているのか。爆発寸前だ。
つまり、爆発するのはAメロ、出山氏のボーカルが入ってからなのだ。
サビですらないのに、Aメロから爆発しているのだ。
ドアのノックを聴いたんだ!
激しく迫ってくるんだ!
そんな曲のテーマは死。
『俺はまだお前を愛しているんだ!
でもできないんだよ!』
そんな叫びが聞こえてくるかのようだ。
つくづく名曲だ。
ちなみにこの曲、ギターソロが大きく分けて2通りある。
シングルバージョンとアルバムバージョンである。好みが分かれるところだが、学会員はシングルバージョンが好きだ。
そんな激しい曲が収録されたシングルのカップリング曲は『endless rain』
終わらない雨が心を濡らす。
そんな美しくも悲しいバラードである。
このようにXには、X JAPANには名曲がいくらでも存在する。曲数が少ないためかも知れないが。
そんな中にあって学会員が好きで好きで仕方ない曲は……
celebration
作詞作曲は松本氏である。当初は出山氏が作詞をしたのだが、色々とイチャモン付けているうちに結局松本氏の作詞となってしまった。
シャレた言葉にロックンロールテイストで歌いやすい曲でもある。掛け声の『hey』なんかはみんなでハモると最高である。
石塚氏によると、ギターソロは酔っ払いが弾いてるようなものだそうだ。何にも考えず弾けばいいと。彼はいつも酔っているくせに。
celebration:名詞
意味:祝賀会、儀式
例:She started for the real celebration.
(彼女は本当の舞踏会へと出かけていきましたとさ……)
unfinished
未完成を意味するラブソング。
作詞作曲は林氏である。
イメージは黄昏。日本語では言いにくかったために全て英語となっている。
とにかく美しい曲である。涙を拭いて、もう行かなければ。弱い自分に強い自分、道を見失った自分、愛する人を探して歩き続ける自分。いろんな情景が偲ばれる名曲、バラードである。
unfinished:形容詞
意味:未完成の
例:Mr.Hayashi left the song unfinished.
(林氏はその曲を作りかけのままにした)
joker
作詞作曲は松本氏。歌う人間のことなど考えてない言葉の詰まった歌いにくい曲である。息を吸いながら歌う必要すらある難曲なのだ。腰を使ってグルーブを出す曲でもあり、たくさんの音が重なった楽しさ爆裂な名曲でもある。
joker:名詞
意味:冗談を言う人、おどけ者
例:Fuckin' joker is blocking my driveway.
(行儀の悪いクソッタレ野郎が俺の道を塞いでやがる)
Art of life
CRAZE瀧川氏の半生を描いた曲が『夢追い人』ならば、X林氏が半生を費やした曲はこれであろう。
一曲30分!
これをラジオで聴いた時は衝撃だった。もちろん全てを聴くことは叶わず、ラジオ用に24分だけ聴くことができたのだ。
砂漠に咲いた薔薇のような孤高さ。
1人の男の孤独な生き様を象徴しているかのようである。
時には風のように美しく、時には嵐のように激しく。かと思えば陽だまりのように優しい。音楽に魂を捧げた魔王のような男が作った曲に相違ない。
身を焼く蓑火のように激しく燃えて、電池が切れるように終わる。
そして、喉から血を吐いてまで、音域を広げる注射を打ってまでレコーディングをした男の苦しみがこもっていることは忘れてはならない。
嗚呼、全曲名曲なので切りがない……
名残は惜しいが日本ビジュアルヒストリーはこれで終わりである。
しかし、ビジュアルワールドは永久に不滅である。そして世の中には素晴らしいバンド、ミュージシャンがたくさん存在する。
X JAPAN、CRAZE、BUCK-TICK。
氷室京介、小橋照彦、板谷祐。
布袋寅泰、石塚智明、瀧川一郎。
沢田泰司、和山義仁、江森博。
林佳樹、山田真也、菊池哲。
日本ビジュアル界に君臨する数多の英雄に敬意を表しつつ、これにて終幕としよう。
今回まで趣味と偏見丸出しの迷文にお付き合いいただきありがとう。
またの会う日を楽しみに。
今日の日はさようなら。