ー愛する人生とはー
俺は、順子の助手席に、また、座る。もう、俺にとって、この助手席は定位置だな。竜太郎に親父に。親父が俺に最後に渡した、ギターケースを開けてみる。
「ねえ、圭吾君。助手席で、そんなことしちゃ危ないよ」
「すまん。順子」
「お父さんと何かあったの」
「二度と帰ってくるなって、言われた。わけわからん。記憶がないけど、俺って酷い息子だったんだな」
「ねえ、私の家に住みなよ。尽くすよ。私、圭吾君には」
「ありがとよ」
車はトンネルに入る。俺は、もう。失うものは何もない。ドリンクホルダーの缶コーヒー。順子。本当に俺でいいのか。順子は、欠伸を一つ残して。結婚か。こんな俺みたいな馬鹿が。嗚呼、鼻血はとまったが、親父に殴られた、頬が痛い。缶コーヒーを飲み干したら、順子の家に到着した。
順子は車庫入れ。そうだな。順子ばっかり、運転してる。順子も疲れるだろうな。免許ぐらい取るか。
順子の部屋。指と指がカラミアウ。全裸の男と女。俺は順子を愛してる。順子は俺を愛してる。ギターケースを一瞬、俺は見た。そして、俺と順子は、また、笑う。
「順子よ。本当に結婚するって俺でいいのか」
「馬鹿な質問だね。私には、あんたしかいないの。もうすぐ、クリスマスだしさ。聖夜に結婚でもしてみようか」
「わかった。順子のお父さんとお母さんに言うよ。娘さんを僕にくださいって」
「うん。あんたって笑えるね。そうだ。言っとくよ。私、お母さんがいないんだ。お父さんの本当の仕事は、所謂、極道って奴だよ。組長さん」
「そ、そうなの。お母さんがいないって、離婚でもしたのか」
「去年、自殺したんだ。癌にかかっててね。もう、治らないって医者に言われたその日に、お父さんの拳銃で頭をぶち抜いちゃって。ねえ、だから、私、さっき、お母さんの事、思い出して、泣いたの」
「そうか」
俺には、これ以上の言葉がなかった。ただ、順子を、また、抱いた。
「ねえ、圭吾君、起きて」
「あ、俺、また、寝てたのか」
「ぐっすり、眠ってたよ。今日の昼間にさ、お父さん、帰ってくるから、挨拶していってね。ここなら、安全だよ。私は堅気だからね」
「う、うん」
「それとさ、ギターケースの中に、こんなものまで入ってたよ」
順子は真剣な顔つきで、通帳と実印を手に取った。えっ。なんだそれ。藤原圭吾様という80万ちょい、入ってる通帳。俺って何の仕事をしてたんだ。実印。もう、家には帰れないな。俺には順子しかいない。煙草に火を点けて、俺は人生を考える。人生って何だろう。この俺にとって。お父さん、組長さん。俺の記憶と未来はどうなる。俺は、煙草を灰皿にもみ消した。