サイコパスFEELING
順子は、思いきり笑い、大袈裟に言うのだ。全裸のままで。
「あんた、ぼけーっとしてるんじゃないよ。記憶喪失なら、財布を見なよ」
「それもそうだな。俺の名前は藤原圭吾」
「そんなの、わかってるよ」
順子は笑い、煙草に火を点ける。ポケットの財布を見る。1万と3000円。それは、どうでもいい。財布を探ってみると。学生証。何々。北高等学校。定時制。1977年1月11日生まれ。藤原圭吾。住所は、鎌倉市。俺って鎌倉人なんだ。それと、北高ってどこだ。北高ってなんだ。
「なあ、順子さんよ。今、西暦、何年なんだ」
「あんた、馬鹿だね。そっか、記憶喪失か。今、1995年だよ。12月5日。あんた、今、18歳だ。って私に何度も、酔っ払って言ってたよ」
「俺って18なんだ」
「そう。それでさ、北高の藤原だ。俺、怒らすと怖いぞ。とか何とか言ってたよ。まあ、いいじゃん。全て、忘れなよ」
「そうするか。なあ、順子さんよ。服、着なよ」
「はいはい。私の彼氏の圭吾君」
「あんたはイクツなんだよ」
「私。28だよ。あんたの10上。あんた、私に、きれいだ、きれいだって口説いてたよ」
「ふうん。あんた、きれいだよ」
「素直でよろしい。ありがとう」
俺と順子は、車に乗って。ドライブだってよ。この道、正直、俺は忘れてしまった。色んな意味で。ドリンクホルダーのコーラを飲む。順子は、大笑いしながら運転中。横須賀へと続く道らしい。この道は。
「あんたさ、神社とかは好きなの」
「神社なぁ。わからん」
「困った時は神頼み。横須賀神社へ行こうよ。記憶も戻るかもしれないよ」
「そうだな。わかった」
キスを交わす、俺と順子。順子は煙草も好きだな。また、吸ってるよ。俺も、まあ、吸うか。この煙草、いったい、どこで買ったんだ。俺は。そうすると、大きな鳥居が見えてきた。横須賀神社駐車場と書かれた、デカい看板も見えてきた。順子は、何者。俺に言う。
「圭吾君よ。お祓いしてもらおうか」
「お祓い。俺、そんな金ないよ」
「私が出すよ。私、社長令嬢なんだ。お父さんは運送会社の社長なの。あんた、今日から私のヒモってことで。ねえ、圭吾君」
「ヒ、ヒモ。ありがとよ」
駐車場から、二人して歩く。キレイな神社だな。鳥居をくぐる。順子は、巫女さんに話しかけ、俺に言った。
「神主さん、今、いるみたいだよ。お祓い、お祓い。圭吾君」
「わかった、わかった」
神社の受付に巫女さんが二人。順子は受付で、「お祓い、よろしくお願いします」と金を払う。
「圭吾君よ、おみくじ、ひいてみな」
「はいよ」
どこまでも記憶喪失な俺。記憶が戻りますようにと想い、おみくじをひくと大吉だった。良かったわ。そうこう、順子と大吉、大吉と騒いでいると、神主さんがやって来た。神社の中に通され、神々を知る俺達。神主さんが真剣な顔つきになる。お祓いが始まり、気を引き締める俺。順子の真剣な顔つき。神様、神様。お願いしますと、心の中で俺は呟いた。
「圭吾君さ、あんた、記憶は戻らなかったの」
神社の横にある、喫茶店で順子と俺はアイスコーヒーを飲み、この表現が全くできない、現実に馬鹿になる。
「戻らないよ。順子さんよ」
「あんた、俺はレーサーでギタリストだって、ジーコンでずっと、私にカッコつけたよ」
「俺がレーサーでギタリストなのかよ。証拠でもあるのかよ」
「馬鹿だな。私は嘘吐かないよ」
財布を再び、探る、馬鹿な俺。ちょっと待てよ。何だ、サーキットライセンスと書かれたカードが出てきた。そこには、俺の名前と生年月日と顔写真。えっ。俺って、レーサーなのかよ。まだまだ、謎が多いな、俺と云う男と順子と云う女は。順子は、まただ。いきなり、俺にキスをして。ここ、喫茶店だよ。
「ねえ、私ん家に帰ろうよ」
「いや、いいわ。セックスばっかりしたいだけなんだろう」
「そうだよ。圭吾君。私はあなたを愛しています」
「はあ。ありがとよ。それよりさ、俺の記憶喪失が治るのに協力してくれよ。順子さんよ」
順子と俺は学生証に書かれた、俺らしき、男の鎌倉の自宅へと向かうことにした。俺の親父と母親って、いったい、誰なんだよ。俺は煙草に火を点けた。