グルグルマワル
スキンヘッドのネクタイの男。スーツのバッジには、「校長岸田」。と印字。いよいよ。自動車教習所の入学式に俺は臨む。
「自動車は我々の宝であり、人類が生み出した、最高の機械であります。我々は自動車による事件事故を二度と繰り返してはいけないのです。皆さん、今日は1995年12月10日であります。順調に皆さんが自動車を学習し、ご卒業されるのは1995年12月24日、クリスマスイブであります。神に誓い、皆さんが安全なドライバーになることを心に願い、私、校長、岸田のあいさつとさせていただきます」
ああ、そうか。卒業がイブか。この岸田という人。凄いんだな。校長先生。よし、適性検査も済ませて、俺は車ノリになろう。その前に、一服しよう。何故、岸田さんはスキンヘッドなんだろう。そうすると、それこそ、岸田さんが喫煙所の俺の横に現れた。そして、言うのだ。
「君、可愛いね」
「はあ」
「彼女とかいるの」
「もう、結婚してます」
「そうなんだ。今日からよろしくね」
「はあ」
岸田さんは何故だか、俺にタバコをせがみ、俺は仕方なく、ポケットのラッキーストライクを一本、岸田さんに差し出した。岸田さんは言うのだ。
「君、神奈川なんだって」
「はあ」
「いいところだね。僕も引っ越したいよ」
「はあ」
「奥さんによろしく」
「はい」
「タバコ、ありがとう。なるべく、早く卒業させてあげるね」
「はあ」
何だろうこの男。ホモセクシャルなのであろうか。まあ、いいわ。俺に不安などない。あるとしたら、記憶が戻ったら、俺の人生、とは。いうことだけ。順子、待ってろよ。お前を助手席に必ず、俺は乗せるから。
「はい、乗車確認、ミラーの確認。よし、君、完璧だね」
何なんだ、この人。岸田さんが俺の教官か。俺は、初めての運転席に喜ぶ。しかし、岸田さんが俺の膝を触る。キレた。
「教官よ、なんなんだよ。俺には嫁がいるんだよ。セクハラじゃないかよ。え」
岸田教官はバレバレの嘘泣きをして、俺に謝るのであった。
「すみません、すみません。すみません。君があまりにも可愛いから、こんなことを」
「もう、いいよ。岸田よ。俺に車の技術を教えろ。お前の仕事だろうが」
「はい」
と情けなく言う岸田。教官で校長で、この人、いったいなんだ。俺は、元レーサーなのか。よくわからないけど、サイドミラーを見て、岸田を見て、いよいよ、エンジンをかけた。おお、良い感じじゃねえか。車よ。泣き続ける、岸田を見て、ギアを一速に入れて、走り始めた。
「岸田教官よ」
「はい」
ビビる岸田には嘘しかない。
「早く卒業させてくれるんだろ」
「はい」
「早速、外で走ろうや。俺、元レーサーなんだよ」
「はい」
ビビる岸田。俺は、教習所内をグルグル回り、いきなり一般道で運転だ。いいね、車って。アクセル、走る。ブレーキ、止まる。クラッチ、変わる。ハンドル、曲がる。ギア、変える。俺って自分で言うのもなんだけど、運転上手いな。岸田は、泣き続けるのであった。待ってろ、順子。指輪の交換、この後、すぐ。




