3.始まった「普通」
時は少々進んで、由樹音視点のお話。
入寮までの1週間。
本当に目まぐるしくすぎて、あっという間だった。
だんだん、スポーツ系と文化部系とでまとまりが出来てきて、休み時間の教室には談笑が見られるようになった。
まぁ、私はほとんど他の人と喋ってなかったけど。
昨日から始まった授業は、先生達の長い話と中学校の復習ばかりで、簡単だった。
ただ、大変だったのは、授業が始まるより前の日にやった、自己紹介とか学級組織決めとか。
しょっちゅう喋らなきゃいけないから、頭がフル稼働だ。これが、パソコンとかの機械類に対してなら楽しいのに、人に対してだと本当に難しい。
なんだかんだ言って、特に目立つ行動もしなかったんだけどね。
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「ただいまー」
「ただいま。」
玄関に響く間延びした和花姉ちゃんの声と、呟いた私の声。二人揃って帰宅する、いつもの光景。そして…
「おかえり。ご飯出来てるわよー。」
明日からしばらく、おあずけになってしまう光景。
明日は入寮日。もう荷物はしっかりまとめてあるし、心配することはないけど、お母さんとお父さんに会えなくなるのは少しさみしいかな…
そんな事を考えながら自分の部屋に行き、制服であるブレザーのボタンを外していく。脱いでハンガーに掛けたそのブレザーは、まだ新品同様にぴしっとしている。スカートも、ブラウスも、無駄なシワが一切無い。
そう言えば…先輩たちの制服、全くシワが見えなかったし、ブレザーもキレイだったな。
きっと、しっかり手入れして大切に扱っているんだろうな。さすが、『良い女性を育む』と教育目標を掲げているだけはあるって感じ。私も頑張らなくちゃ…
リビングにある食卓につくと、和花姉ちゃんはもう座っていた。
「「「「いただきます」」」」
お母さん、お父さん、和花姉ちゃん、私。四人分の声がしっかり揃う。
明日からは聞けない…と考えて、本当に家族は良いな、と改めて思う。
「明日入寮日よね。頑張ってね。」と、お母さんが言う。
「うん!楽しみだなー」
「由樹音も頑張るのよ。」
「はーい。」
本当は寂しいけど、成長するため。
いつまでも家族に甘えてちゃいけないから。
「夏休みには帰ってくるんだろう?」と、お父さん。
「うん。ちゃんと帰ってくるよー。」
「そうだよ。」
本当はもっと早く帰って来たいけど。夏休みまでは原則帰れないというルールがあるそうだから、仕方ない。
「あなた達が美聖学院の資料持ってきた時は驚いたわ。」と、お母さん。
「あれ?お母さんは美聖学院のこと知ってたの?」と、和花姉ちゃん。
「そうじゃなくて、全寮制の学校ってことに驚いたの。私も全寮制の高校に通っていたから。」
「そうなの!?びっくりした…」
「えっ!?」
和花姉ちゃんが珍しく本気で驚いていたから、私は和花姉ちゃんに驚いた。
お母さんは続ける。
「ええ。最初は自分でやることが増えて大変だったけど、できることが増えていったから嬉しかったわ。おかげで今も、家事が早くできるわ。」
お母さんは、果実株式会社という広告会社の社長をしている。お母さんが立ち上げた、今かなり有名な会社。
そんな会社を運営しながらも、家事を欠かさないお母さんはやっぱりすごい。
私も寮で頑張ったら、お母さんみたいな人になれるかな。
そういえば、お父さんも別の会社の社長をやっている。イリノ家具という家具チェーン店の社長なんだけど、これまた有名な会社。
初めは本部に務める普通の社員だったのに、当時の社長に気に入られて、社長の座を譲られたと聞いている。まだお父さんは46歳だから、入社して何年目のことなんだろう…。
良く考えると、本当に優秀な両親を持っているような気がする。
私も、お母さん達みたいな人間になりたい。
私にしては、長く書きました。
雰囲気を出したいから、描写は大切にしたい。でもだらだらするのも良くない。(主に私が物語の構想を忘れるため)
なんて考えてたら、この長さ。長いのか短いのか…
次話は和花音視点の予定。
早めに投稿します。(失踪しないようにするため)