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喜悲劇の傀儡  作者: 火野莠里
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喜悲劇の終演

 手記をすっかり読み終え、気が付いたら慌てて過去の連絡先などを漁ってみていた。突拍子もない行動だと自覚はしている。然し其れでも気になったのである。

 暫く経ち、手紙が送られてきた。字から察するに、例の狂人からである。「重ね重ね、失礼するよ」と前置きが在って、以下の様に綴られていた。



『君が此れを読んでいる頃、わたしは泉下の客と果てていることだろう。其れで善い、善い。君さえ読んでくれればあの手記も、此の手紙も、他に用はないのだから、構わない。君はわたしを真に笑わず心配許りするのだから、初めてわたしは敗けたと思ったよ。最後の道化も君には通じないのだろうね、わたしと連絡を取ろうと必死に探し回る君の姿が目に見えるようだ。無論、此の手紙で其れが不必要なことは理解して貰えただろうが、後の事は放っておいて構わないのだよ。言っておかなくちゃ、どうも君は深入りして了いそうだから、言っておくよ。

 して、そんなやさしい君の眼にあの戯けた手記は如何映るのだろう。また何時もの様に莫迦だと云っているのか。まったく、わたしからして見れば君の方が余程莫迦者だと思うのだけれど。アアこれは決して貶す目的じゃあないんだ、君の莫迦なまでに純粋なことが他に言葉が見当たらなくてね。実に有難い逸材だったと思うよ、君は。

 とかく、わたしは君に多大なる恩義を感じているし、あの手記で論じたことは君を否定論に貶めるためのことではない、それは領解してくれるね。寧ろ、わたしは君に憧れる。恩を返せないことは唯謝罪するしかないのだが、最後まで甘えを以て恩を仇で返すことも、重ねて謝罪したい。ほんとうにすまない。』



 狂人、いやかつての最高の喜劇者はかくして死を迎えた。喜悲劇は其の手紙に依って幕を閉じた。敢えてこれを諸君の眼に晒すのは、喜悲劇を完全な物にさせようと云うエゴイズムである。後の事は放って置けと云われたが、劇は終劇する迄が演目だと云う考えに依り、此れを纏めて書き著した次第。

 

喜悲劇は何時も近くに在り、何処にも無い。然し観客は何時も居る。悲劇の者、喜劇の者、そして、喜悲劇の演者が何処かに必ず在ることを、わたしは忘れてはならないのだった。

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