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 青年は寒気すら感じた。それはきっと、上半身を脱がされている故の物では無い。

「あ、でもガムテープ貼ったままだとキスできないね。外してあげるっ!」

 彼女はそう言いながら勢いよく口のガムテープを取り外した。

「かはっ。おまっ、やめっ!」

 青年は何とか制止しようと、自由になった口で何かを言おうとしたが、すぐに無理やりに唇を重ねられ、またもや自由を奪われた。

 長い、長いキスだった。

「ぷはぁ…。はあ。はあ…。」

 少女は口を離すと、少しばかり肩で息をした。

「さーて、さっきの会話から、お兄ちゃんの上の純潔は奪われているけど、きっとしたの純潔(それ)は守られてるはずだし。」

 そう言いながら、彼女は視線を下腹部へと向けた。無理やりとは言え、長時間の接吻(キス)によって不覚にも膨らみ上がってしまったソレに。

「じゃあ、とりあえず。」

 少女が行為をしようと、自らのスカートに手をかけようとしたその時、

「ま、待てっ!」

 やっと自由になった青年の口から、声が発せられた。

「お兄…ちゃん?ど…したの?」

 鬼気迫ったような青年の声に、少女は不安げにそう聞いた。

「聞きたいことは山ほどあるんだが、とりあえず、」

 青年は蒼白とした顔で聞いた。

「お前、誰だ?あとお兄ちゃんって一体…。」

 暗いのに、少女の顔からは血の気が引いているのがハッキリとわかった。

「だって、俺、」

 青年は続けた。

「妹、居ないぞ。」


「嘘だ…。」

 少女がポツリとそう言った。

「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘嘘だ嘘だ嘘だ嘘だだ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だっ。」

 何かから逃避するように彼女はそう繰り返した。

「お兄ちゃんがそんなこと言うはず無いもん。お兄ちゃんは、私だけのお兄ちゃんは。」

 頭をブンブンと横に振りながら言い続けた。

「嘘だっ!だって、だって――。」

 彼女は電池が切れたロボットのように唐突にフリーズした。

「そうか。お兄ちゃんじゃないのか。」

 酷く落ち着いた声で、彼女はそう言った。

「あなたは本物のお兄ちゃんじゃないんだ。そうだ。そうに決まってる。」

 青年は何も言えないまま、ただ、少女の言葉を聞いていた。

「そっか。それなら…。」

 だんだんと声が低くなってくる。そして彼女は吐き捨てるように言った。

「お兄ちゃんじゃ無い人には、興味ない。」

 彼女は鞄を手繰り寄せ、中から手探りで目的物を取りだした。

 革で出来たカバーを取り外すと、それは月明かりに照らされ、怪しげな銀色の光を放っていた。

 青年が眠る前に最後に聞いたのは、太く、低い叫び声と、高く、乾いた笑い声だった。

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