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 茂みの奥深くから、閑散とした公園の周りを走る遊歩道へとひたすらに視線を送る少女がいた。

「私の予想では、お兄ちゃんはここを通るはず。」

 待っててね。お兄ちゃん。

 そんな小さな呟きが、風に(なび)いた草木の音にかき消された。


 一時間ほど前、この少女はとあるニュースを耳にした。

『――にある公園で、犬の散歩中だった男性が、茂みの中にあった男性遺体を発見しました。遺体には、刃物のような鋭利な物でつけられたと思われる無数の刺し傷や切り傷があったため、以前から起きている連続殺人との関係性を調べるほか、男性の交友関係も――。』

 偶然、町中にある電気屋のテレビでニュースの放送を見た彼女は、即座にこの町にある公園だと言うことに気づいた。

「急いでお兄ちゃんを捜さないと!」

 兄を殺されるのではないかと考えた彼女は、兄を捜すためにこの町にある別の公園へと向かった。

 そして現在に至る。


「みいつけた。」

 少女の視線の先に一人の青年が現れた。

「お兄ちゃ…。」

 彼女がそう声を発しようとしたその時、少女の視界にはさらにもう一人の人物が現れた。

「そりゃ、そうだよね。お兄ちゃんだっていい年なんだし、彼女くらい…。」

 彼の手には、女性の手が握られていた。初々しく、ぎこちなく。しかしながらとても幸せそうなその笑顔に、少女の胸の奥は釘で貫かれたかのような感覚に襲われた。

 兄の気持ちのためには抑えるべきという思いから来る少女の理性が、加速する感情を何とか抑え込んでいた。そんなとき。

 青年は、何かを思いきったかのようにして女性のことを呼んだ。名前を呼ばれた彼女は少し不思議に思っているであろう表情で青年のことを見た。青年は何も言わず、赤面のまま、彼女へと顔を近づけた。そして、


 キスをした。


 決して長い時間ではなかった。しかし、少女には悠久のごとく長い時間に感じていた。

 二人の口が離れ、その瞬間、少女の指がスマートフォンを叩いた。ディスプレイには、点滅する数字が並んでいた。

「大体、六秒くらいかぁ。」

 嫌な予感を感じ取った少女は、キスが始まる前に、何とかスマートフォンのストップウォッチ機能へと指を滑らせていたのだった。

 そんな少女の瞳は、虚ろさを帯びていた。

「我慢しなきゃいけないんだろうけどぉ。ちょっと、我慢できそうにないなよぉ。」

 そう言うと、彼女は、自らの鞄に手を入れると、黒色の塊を取りだした。

「少し痛いかもしれないけれど、我慢してね。」

 艶がかった声で彼女は言った。

()()()()()。」

 傾きだした空の(もと)、明るさを失いかけた茂みの中に、青い閃光が走った。

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