電車の中で
高校の授業が遅く終わったため僕は混んでいる電車に乗らずに済んだ。空席はちらほらある。僕の降りる駅まで8駅。いすに座って到着までスマホをいじりながらゆったり待つ。
「若葉〜若葉〜。」
静かな車内にアナウンスが流れ扉が開く。
僕はスマホの画面に夢中になっていたため誰かが入って来たのはわかったがまったく見なかった。その人はいくつか空席があったのにも関わらず僕の方に近づいた。それに気づきちらりと見る。そのままその人は僕の隣に座った。その座り方はとても上品で育ちの良さが現れている。視線をまた左に向ける。制服のスカートをはいていたため女子高校生だと思う。そのスカートからのぞく足は細く、靴には小さな傷があるが汚れがなく手入れがきちんとされている。その子は鞄から本を取り出し読み出した。今の学生にしては珍しいなと思いながら視線をスマホに戻しまた僕はいじりだした。
「鶴ヶ島〜鶴ヶ島〜。」
扉が開いたが今度は誰も乗ってこない。数分して電車が走り出した。間もなくして疲れていたのか隣の子がウトウトし出した。横をチラ見すると長い髪で顔を隠し首を下げていた。おそらく寝てしまったのだろう。それほど関心がなかったため気にせず僕はスマホに集中した。
しかし数分後、気にせずにはいられなくなった。僕に寄りかかってきたのだ。僕の腕に女の子の柔らかな体が寄りかかる。さらには僕の肩に頭をのせる。ふんわりとシャンプーの匂いが香り胸の鼓動が早まる。またかわいい寝息をたて始めさらに鼓動が早まる。
「霞ヶ関〜霞ヶ関〜。」
アナウンスで起きると期待したがダメだった。首を右に向けようとしたが女の子の顔があると思い、目だけを向ける。あまりの顔の近さにすぐに前を向く。前を向くと外が暗く窓が鏡になっていたため女の子が僕に寄りかかっているということをはっきり告げる。周りを見て目で助けを求めるがそんな人はいない。先ほどの僕と同じで周りの人に無関心なのだ。起こせば解決するが僕の良心がそれを許さない。
「どうしよ。」
ほんとに小さな声でポツリと呟く。チラチラと横を見るが起きる気配がない。途方に暮れていた。まともに女の子と話すらしたことのない僕には難問すぎた。話しかける勇気すらない僕は起きるのを待つことを決心した。
「川越市〜川越市〜。」
ここでも起きない。慣れないことをしていたためか疲れていた。ちらりと隣を見るが気持ちよさそうにかわいい寝顔で寝ている。それを見た僕はこんなかわいい子ならこのままでもいいかななんて思い始めていた。目的地まであと4駅頑張れる気がした。
「川越〜川越〜。」
突然、女の子が起き、開いた扉から出て行ってしまった。突然すぎたため理解できない。ふわふわした感情のまま電車が動き出した。そして目的の駅に着き僕は降りた。いったいあの出来事はなんだったのだろうか。