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呼び出し英雄物語  作者: 東京多摩
23/27

Vエンド

召喚者「唯一絶対王」

 一人の男が立っていた。

 真っ白なガウン状の寝間着であり、とても薄く軽そうな素材で作られているようだった。

 王が『救世主』に礼をしようと近づくと、男は突如として右腕を上げ、指先までピッシリ揃え天井を指した。

 近衛がすぐに王の前に立ち、盾でお互いの体を守る防御陣形を取る。

 緊張する空間の中、『救世主』が口を開いた。


「融解の冷蔵庫に眠る物は起きよ!王の帰還である!」


 さながら、魔術師の扱う呪文のような文言であった。

 もっとも、言葉尻に魔力はなく、つまるところ意味のない言葉の羅列である。

 王や近衛がぽかんと口を開けたまま『救世主』を見ていると、彼はさらに口を開く。

 

「提灯持ちの街灯は内なる心秘めた重鎮と人形以て人となれ!暗い番傘の怒りを知る者は今すぐにここに参上しろ!これは王命である!さあ行くぞ煙害共よ、凱旋式の始まりだ!道を開け、我を通せ!再度言おう、これはベルセルクの定めた覇道の一環である!さあ、私の後について参れ!王の、唯一絶対王の凱旋式である!」


 まくし立てる彼は、もはや『救世主』ではなく、ただの狂人であった。

 騒ぐ彼を地下牢に押し込め、心理魔術師の思考公開術で彼の頭の中を覗くと、凱旋式が行われていた。

 人ではない灯篭やごみ箱、良く分からぬ機械の集合体や巨大な急須などが、王である彼の後をついていく光景が地下牢の壁に映し出されていた。

 心理魔術師曰く、「彼は英雄です。彼の中では。」とのこと。

 王は、頭を抱えた。

 英雄召喚陣は一度しか使えない超高等魔術である。

 再度『救世主』を召喚するには、時間が足りない。

 魔王軍が差し迫る危機的状況下での最後の望みは、今ここで絶たれた。

 絶望が取り巻く地下牢で、英雄は言葉を紡ぎ続ける。

 はたして絶対唯一の王は、魔王の軍勢が彼を殺すまで、その凱旋式を続けるのであった。

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