Iエンド
召喚者「勇者(二回目)」
「いってぇ…。いったいなんなんだ?」
剣を携え皮を蝋で固めた鎧を着込む、一人の若い剣士が魔法陣の中央に居た。
フードの人々が歓声を上げると、剣士は即座に剣を抜き、フードの人に切先を向けた。
「ええぃ、今度は邪教集団か!?来るなら来やがれこのやろう!」
「いえいえ、私どもは邪教なんて者ではありませんよ、『救世主』。」
そう言って、被っていたフードを取り、王が剣士の前で膝をついた。
「『救世主』よ、どうぞ世界をお救い下さい。」
そう言って、頭を垂れるのだった。
事情が呑み込めない『救世主』に、一人の大臣が近寄り、世界の状況を説明した。
世界の生ける生命をすべて消さんと、邪神が復活を果たしたこと。
この世界における勇者や剣豪、騎士団をいくら差し向けても、皆失敗したこと。
そして、最後の手段として、異世界から邪神を倒せる『救世主』を呼び出したこと。
「つまり、俺にその邪神を倒せってことかい?」
「左様でございます。」
「なるほどねえ…。」
『救世主』は、一度体をよく伸ばすと、王と向かい合った。
「俺は、実はこんなのが二回目なんだ。だからな、今回もその邪神ってやつを倒してきてやるよ。」
フードの一団はわっと歓声を上げるのだった。
翌日、早速とばかりに『救世主』は何人かの護衛と共に旅立った。
王や城下町の人々は皆、祝福をもって勇者の旅立ちを見送った。
それから、ひと月、ふた月、半年たっても勇者は帰ってこず、段々と人々は不安になってきた。
そんな最中、護衛の一人が、こっそりと王宮に戻ってきた。
彼からの報告は、「失敗した。」とただ一言だった。
『救世主』は「邪神には弱点がある。そこを突けばすぐに終わるさ。」と何度も言っていた。
しかし、邪神と対峙した際、その弱点、心臓を貫いても、邪神は平然としていた。
弱点のわからない邪神に対抗できない『救世主』は殺され、護衛も自身を残して皆死んでしまったと、彼は涙ながらに話したのだった。
それは、邪神が世界のすべての生命を消す、おおよそ一か月前の結末であった。




