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「まあ、今の暮らしもそれはそれでええんやけどな……」
そう切り出して突然表情に陰りを見せたYOUに、ルリ-フリルラとチェーレは目を瞬かせる。
「生前の俺、めっちゃかっこよくてモテモテやってん。呼ばれて振り向くだけで女の子喜ばせられてたんやで。せやのに今こんなやろ? 事故の時はこいつうつ伏せやったしあんま顔とか気にしてられへんかったけど、後々鏡見てめっちゃショック受けたわ……眼鏡とったらなーんも見えへんしな。俺コンタクト怖くてつけられへんし……」
そう言って両手で顔を覆ってしまったYOU。
思わず話を聞いていた2人は顔を見合わせた。
「生前のYOUくんのことは分からないけど、私は今のYOUくんも素敵だと思うよ?」
「……ほんまに?」
「本当だよ! 笑顔がお日様みたいで素敵だし、そのピンクの眼鏡似合ってるし、私はいいと思うよ!」
決してお世辞ではなく本心でそう答えてお日様のような笑顔を見せるチェーレに、YOUの表情はみるみる明るさを取り戻していった。
「わあ、そんなこと言うてくれるなんてチェーレは優しいなあ! 思わず涙出そうやったわ。ルリもなんかええこと言ってくれてもええんやで?」
期待の眼差しを向けるYOUに対し、
「お前に言うことなんて何もねえよ」
「ええっ!? なんやそれ、冷たいわあ……」
冷たく言い放ったルリ-フリルラの言葉に、がっくしと首を垂れるYOU。
そんな彼をくだらないモノを見るように一瞥していたルリ-フリルラだったが、突然ガチャンと音がしてそちらへと視線を移した。
「ああ、帰ってきはったんかな」
先程の音は玄関の扉の音のようだった。
YOUがつぶやくようにそう言った直後、リビングへとつながる扉の向こうに人影が写り、再びガチャンと音がして扉が開かれた。
入ってきたのは、白衣を身にまとった青年だった。
薄茶色の髪や髭はあまり手入れされていないようで、どことなく清潔感とは遠い印象を与える。
顔には右側の額から頬にかけてと左側の頬に傷跡が走っていて、右目は閉じられていた。
なんの挨拶も無しに入ってきたということで、彼がYOUの言っていた博士と呼ばれる人物なのだと2人は察した。
「ん? お客さんか?」
「せやで。俺が呼んだんや」
「お前なぁ、一応身を潜めて生きてるんだからほいほい知らない人と関わったりするなよ」
「ちょっとぐらいええやん! 俺死んでからおっさんみたいなお兄さんとしかまともに喋ってへんねんで!? そりゃ同世代の、できれば女の子と関わり持ちたくもなるやん! まあ自分は研究が恋人ですーいうようなもんやから俺の気持ちなんて分からへんやろけど?」
ぐちぐちと言い訳のようにまくし立てるYOUに対し、博士は仕方がないという風に少し肩をすくめた。
「まあ、俺だったらその体の彼の持ち物全部持ち帰って本当に蒸発したってことにしてたと思うけどな。そんで手っ取り早く闇医者にでも整形を頼んで、新しい人として生きていく方が賢明だと思わないか?」
「またその話か? ええねん、俺やったら身近な人が急に消えた言われるより死んだ言われた方が納得できるし、そもそもこいつも事故に遭ったのはほんまのことやし、いずれこの体も――」
YOUはそこまで言いかけて、急に何かの気配を感じてそちらへ振り返った。
博士も同じものを感じとっていたようで、彼と同じ方に視線を移していた。
2人の視線の先には、ルリ-フリルラの姿があった。