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18!  作者: ミズキカオル
2.借り物の少年
8/33

「俺は学校帰りで歩いててな、もっと北の方なんやけど住宅街におって、そしたらT字路んとこで急にトラックがバーって来てぐしゃって潰されて即死やってん」


 YOUは身振り手振りを使って説明したが、それはとてもお世辞にも分かりやすいとは言えないものだった。

 ぽかんとしている2人を見て、YOUはハッとしたように改めて話を始めた。

 

 シンの国北部にある高校に通っていたYOUは、いつものように学校の帰り道を歩いていた。

 ちょうど住宅街のとあるT字路に差し掛かったところで突然大きなトラックがものすごいスピードで突っ込んできて、彼の体はT字路の突き当りにあったコンクリート塀とトラックの間に挟まれてしまった。

 彼がトラックに気づいてから挟まれるまでは一瞬の出来事だったようで、スピードがかなり速かったこともあり、体は見るも無残な状態になってしまった。

 ということらしい。


「そうだったんだ……」


 悲しそうに目を伏せるチェーレに対し、ルリ-フリルラは表情1つ変えずに彼を真っ直ぐに見つめていた。

 YOUはそんな2人を交互に見て一息つくと、こっからがおもろいとこやねんで、と言って話を続けた。


「気づいた頃には自分がぐしゃぐしゃになっとるのが見えとって、しかも現場見下ろす視点になっててこりゃ死んだなってすぐ分かったんや。そしたらなんか俺めっちゃ消えそうな感じしてきて、もう死んでんのに『死ぬ!!』って焦ってしもて。で、その直後に初めて知ったんやけど、その事故に俺以外の被害者がおって倒れてはって。そいつはちょっと撥ねられたっぽかってんけどほぼ無傷で、でも息止まっててん。なんかよう分からんけど俺はそいつの体に入ろと思て、びゅんってそいつんとこ飛んでったら案外うまく入れたって感じやな」


「はあ……」


 ますます意味が分からないといったようなルリ-フリルラの声。

 チェーレも小難しそうな表情を見せている。


「じゃあ、今のYOUくんはその事故に遭ってたもう1人の子の体を借りてるってこと……?」


「せやで! トラックの運転手の安否は分からへんけど……まあ多分死んでるやろな。赤の他人の体でも結構いい感じに動かせたし、このままそこにおってもあれかと思て俺は逃げるようにその場を離れてしもたんや。そん時ちょうどこの家の博士とすれ違って、俺の様子が普通やないと察したみたいでいろいろ聞かれて、なんか上手いこと嘘つけんように誘導尋問されとって、でも俺の話疑わんで信じてくれはって今に至る、みたいな。そんで、そのままの格好やとそいつやとバレると思て髪染めたり服買ったりしとって、今日はちょうど取り寄せてた眼鏡が店に届いたって電話もろて取りに行ってたんや」


 ふーん、とルリ-フリルラ。

 彼はYOUの話の大部分を理解していなかったが、とりあえず目の前の少年が一度死んで、今は他人の死体を借りて再び生きているのだということはなんとなく理解しているようだった。

 一方、チェーレは不安げな表情でYOUの方を見ている。


「YOUくんの体の子は、今は行方不明ってことになってるの?」


「ニュースでは『消えた死体』て言われてたなあ。俺の体の状態が酷かったし、生きてるとは思われてないとちゃうん。捜索願いみたいなもんも出してへんみたいやったしな。せやから、俺はバレへん程度にひっそり暮らしていくしかないっちゅうことや。いつまでこの体に入ってられるかも分からへんしな」


「そっかぁ……」


 いまいち完全に納得していないといったような声のチェーレだったが、YOUは対照的に調子のよさそうな弾んだ声で2人に声をかける。


「そういえば、まだ2人の名前聞いとらんかったな! これもきっと何かの縁やし仲良くしようや」


 ルリ-フリルラは、人間界ではこうも名前というものが必要とされるのかと若干表情が強張っていた。

 しかし、そんな彼の不安をよそに、隣にいるチェーレがすらすらと答えていく。


「私はチェーレ。で、こっちの子はルリちゃんっていうの」


「チェーレとルリねえ。横文字の名前の友達あんまおらへんかったけど、2人ともええ名前やな」


「えへへ、ありがとう」


「俺は会った時に言うたけど、本名は山田国生いうんや。せやけど今はもう俺は俺やなくなってしもたし、こいつの名前も分からへんからYOUて名乗ってんねん。響きが普通でええかなって思てるけど、もしこいつが“ゆう”くんやったら笑えへんな! ははは!」


 自分が何も言わずとも進んでいく会話に、ルリ-フリルラは少し安堵したようにそっと一息ついた。

 数日前に出会ったチェーレも、今日出会ったばかりのYOUも、“普通”の人間とはいえないモノを持ってはいるが、“人間”として暮らしていかなければならないルリ-フリルラにとって、好意的に扱われるのは決して悪いことではなかった。

 今まで親しい間柄のいなかったルリ-フリルラにとって、このような扱いはとても不思議な感覚をもたらしてはいたが。

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