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ルリ-フリルラは公園の敷地の境界をなぞるようにサクサクと歩みを進め、大木からかなり離れた位置で足を止めた。
もう空はだいぶ暗くなったが、風は今もひらひらとルリ-フリルラの髪や上着の裾をなびかせている。
「…………いるんだろ、アリス」
「はーい、呼んだ?」
ルリ-フリルラがつぶやくと、体の中から響くように声が聞こえた。
彼が人間界へと来てから初めて聞いた、弾んだ子供のような声。
「ふふふっ、“人間”生活は満喫してるかな?」
「……この前の、勝手に体が動いたのはお前の仕業か?」
「あー、バレちゃった?」
全く悪びれる様子もない声が響き、ルリ-フリルラは思わず舌打ちを打つ。
「何でそんなことしたんだよ」
「んー、ちょっとした出来心っていうか? あそこであの博士殺せてもボク的には面白かったんだけどね。キミが思ってたより必死に抵抗してきたから、このままもうちょっと様子見とくのも面白いかなって思ったんだ」
「…………」
ルリ-フリルラが何も返さないでいると、アリスは言葉を続けた。
「前に命令を無視することは難しいんじゃないかって言ったでしょ? ルリ-フリルラは本来“心”の無い生き物。だから召喚されたルリ-フリルラの体は召喚者の命令に自然と従うようになってるんだ。でもキミには“心”がある。その“心”が召喚者の命令に対してどういう反応を見せるのかも試してみたかったんだよね」
「これは俺の体だ。勝手なことすんなよ」
「召喚された以上、キミの体はボクの体でもあるんだよ? ルリ-フリルラは召喚者の命令で動く生き物なんだしさあ。――でも、キミって面白いよね。もしあの場でキミが抵抗せず力を使って博士だけじゃなくチェーレやYOUも殺しちゃったとしても、キミ自身が困ることって何も無いだろう? それにボクの命令だって破っても自分が死ぬだけ。なのに律義に力隠そうとしちゃってさ。キミはもう自分が思ってる以上に“人間”らしく生きられているんじゃないかな? まあ、あの博士はキミのこと疑ってるみたいだけどね」
「…………」
「でも安心して! 魔術を研究する博士といえど、黒魔術を研究することは許されていないから。彼はキミの力を追求することは出来ないよ。過去にやらかした人がいるのも、彼はきっと知っているから……」
アリスはそこで言葉を切って、ふふっと何かを思い出すように笑った。
ルリ-フリルラは眉間にしわを寄せ、口は固く閉じたままだった。
「もー、そんな怖い顔しないでよ。ボクはいつでもキミのことを見ているけど、キミはこれからも変わらずボクのことなんか気にせず“人間”生活を続けてくれればいいんだしさ! ねえ、もっと面白いモノをボクに見せてよ」
「……嫌だ。お前の為になんか生きたくない」
「キミは意地悪だね。でもいいよ。ボクも好きなようにキミを観察して、好きなタイミングで意地悪な命令をさせてもらうから」
「俺は絶対にお前の思い通りにはならない」
「いつまで続けられるか楽しみにしてるよ」
アリスのその言葉が終わるか終わらないかのタイミングで、ルリ-フリルラは再び歩みを進め始めた。
アリスの言葉に返事はせず、アリスもそれ以上は何も言ってこなかった。
大木の傍まで戻ってきたルリ-フリルラに、頭上から静かな寝息が降り注ぐ。
ルリ-フリルラは少しの間だけその場で立ち止まって、しかしすぐに再び歩き出して夜の街へと姿を消した。




