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「しかもその旧政権の人たちを殺したってのが1人の黒魔術師だっていうのが驚くべきところだよな。まあそれも本当の話か定かじゃないが……ひょっとしたら革命を劇的に演出するための嘘なのかもしれない。――あ、間違っても外でこんなこと言うなよ」
と、博士。
YOUはそんなん言えへんやろ、と呆れていたが、ルリ‐フリルラとチェーレは静かに話に耳を傾けていた。
博士は話を続ける。
「革命が実際どんなものだったかなんて今を生きる俺たちには分かるはずもない話だが、さすがに黒魔術は危険なものだと判断されたようだ。そこで革命派の人らは共に戦った同志であるはずの黒魔術師を何らかの形で殺処分した。YOUはこの辺の話も知ってるな?」
「ああ。……まあ黒魔術が危険で怖い思う気持ちは分からへんでもないけど、仲間だったやつ――しかも革命派からしたら英雄て呼べるような活躍したやつまで殺してまうなんて、当時の人らはほんまおっかないわな」
「それだけその黒魔術師が危険と判断されたということだろう」
博士はそこで言葉を切って、ルリ‐フリルラとチェーレの方へと視線を向けた。
2人がしっかりと自分の方を見ていることを確認して、博士は再び話を始める。
「さっき黒魔術が禁忌とされたのは革命の時だって言ったよな。まさにその革命派に属していた黒魔術師の殺害と同時に、黒魔術は禁忌の魔術となった。そして、その革命で活躍した黒魔術師は“最後の黒魔術師”と呼ばれるようになった」
「最後の黒魔術師……」
思わずルリ‐フリルラがつぶやいて、それに気づいた博士は薄っすらとどこか含みのある笑みを見せた。
「気になるか?」
「…………」
少し経って、ルリ‐フリルラが何も返さないと判断してか、博士は姿勢を正して話を続けた。
「YOUは名前聞いたことあるだろ。その“最後の黒魔術師”ってやつの名は雲居花梓。革命派に属して微塵の迷いもなく旧政権の人らを黒魔術で殺していったってことから、かなりの戦闘狂で正気を失ってたんじゃないかとされてるが、実際のところ詳しいことは何も分からないんだ。年も性別も出生も、肝心の殺しに使った黒魔術の内容もだ」
そこでルリ‐フリルラは記憶を巡らす。
これまで何年だか分からないがルリ‐フリルラとして生きてきた中で、雲居花梓という名は一度も聞いたことがなかった。
黒魔術師なら多少魔界でも話題に上がることはなかったのだろうか。
魔界の黒魔術師は、人間界の黒魔術師には興味がなかったのだろうか……。
「なんだか、怖い人なのにちょっと美味しそうな名前……」
唐突にぼそりとチェーレがつぶやき、それを耳にしたYOUがそうやろ! と声を大きくして同意した。
「俺も授業で習ってた時からなんや美味しそうな名前やなあて思てたんや。やったことは殺人鬼のそれというてもおかしくないのに、名前はお菓子みたいなんやで。ちょっとおもろいやろ」
「……ふふっ」
控えめながら笑顔を見せたチェーレを見て、YOUは満足気に目を細めた。
「たとえ過去にどんなことが起こっていようとそれは変えられへん。俺らがいる今はその過去があってこそでもあるからな。でも、過去から学ぶことは出来る。実際革命で黒魔術やばいやんってなって禁忌とされたんやろ? 今黒魔術が無いから俺らは平和に暮らしてけてるのかもしれへんし、きっと革命もただの人殺し事件じゃないはずやで」
「うん」
チェーレは頷き、しかし理解はしているものの完全に納得というわけではなさそうなのは一目瞭然だった。
YOUはそんな彼女を見て少し困ったような笑みを見せ、
「チェーレはちょっと優しすぎるかもしれへんな」




