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「まあ、大事なモノならそうそう手放したくないと思うが、嬢ちゃんの都合のいい時にでも鈴のことも譲ちゃん自身のこともまた聞かせてもらえたら嬉しい。調べたら分かることもあるかもしれないしな」
博士がそう言うと、チェーレはぜひ、と答えた。
「自分自身のことはちょっと怖い気もするけど……きっと分かっていいこともあると思うから」
「さてと。魔術の話だけどな、実は魔術には大きく分けて2種類あって、その1つは“黒魔術”って呼ばれているんだ」
一息ついてからの博士の言葉に、ルリ-フリルラは思わず顔を上げて目を見開いた。
博士はそんなルリ-フリルラを横目でちらりと見て、しかし特別な反応は見せないまま話を続けた。
「黒魔術ってのは、“悪い方向へと作用する魔術”と定義づけられている。でも、それって実際曖昧なんだよな。一応一瞬で人を殺せるような強力な力とか、さっき嬢ちゃんの話でちらっと言ったような他者の言動を操ったりとか、そういうのが含まれてるってとこかな。でも力は何も使いようだ。一見悪くないように感じるものでも見方を変えたら悪に
なっちまうってことも充分ありうる」
「ほんまこれもやもやするんよなあ……」
腑に落ちないといったようなYOUの声。
しかし、どうやら彼はこの話を聞くのは初めてというわけではないようだ。
チェーレはうーんと少し首を傾げている。
一方、ルリ-フリルラは自らが持つ“破壊魔術”のについて思いを巡らせていた。
ルリ-フリルラの破壊魔術は、その名の通りモノを破壊する魔術である。
力を発動する際には手に黒い光が集まり、その手と対象物の距離が近ければ近いほど強い破壊力を生み出すことが出来るといったものだ。
ルリ-フリルラは魔界にいた頃に何度かその力を使ったことがあったし、それが黒魔術というものであることは知っていた。
だが、黒魔術の定義については知らなかったため、それが人間界では“悪”とされているということはもちろん初耳だった。
そろそろアリスの動きもあるのではと身構えるルリ-フリルラだったが、黒魔術の話が出ても今のところ特に異変は無い。
ひょっとしたら自分がどう反応するのかアリスがどこかで楽しんで見ているかもしれないと思うと、ルリ-フリルラの気分は悪くなっていった。
「悪いって言うくらいだから黒魔術は禁忌とされてて、現在黒魔術と呼ばれるものを使う人はいないと考えられている。しかもその黒魔術ってのが禁忌とされたのは約240年前の革命が起こった時だ」
「その辺の話は歴史の授業で習ったから知ってるで。旧政権時代の話はあんま教えてもらえへんのやけどな。その黒魔術っちゅーので旧政権の人らはばーっと殺されてしまったんやろ」
と、YOU。
博士はそうだな、と軽く返事をしたが、どうやら初耳だったらしいチェーレは動揺が表情に表れていた。
軽く右手で口元を押さえる。
「そんなことが……。木さんが240年くらい前に国がガラッと変わったってお話はしてくれたことがあったけど、まさか人が殺されてたなんて……あんまり話すと悲しい気持ちになっちゃうからって言ってたのはこういうことだったのかな……」
「まあ、誰だって聞いていい気はしないよな」
博士はチェーレをなだめるようにそう言って、一息つく。
チェーレは顔を上げて大きな瞳でしっかりと博士を見つめると、純粋に疑問を投げかけた。
「どうして人は殺されちゃったの?」
彼女の問いに、博士が答える。
「国を大きく変えるためさ」
「国を変えるために、どうしてたくさんの人が殺されなくちゃいけなかったの?」
「それも国を大きく変えるためさ。目指すところに立ちはだかる邪魔なものは潰すしかなかったってことだ」
「そんなぁ……」
チェーレはそう声を漏らすと、やりきれないような表情でうなだれた。




