3
「そのさあ……」
今まで黙っていた、やや歯切れの悪いルリ-フリルラの声。
チェーレはルリ-フリルラの方へと視線を移す。
「その、捨てられたっていうやつ? どういうことなんだ……?」
「ちょっ、ルリ! 何言うてんねん!」
思いもよらなかったルリ-フリルラの言葉に声を荒げたYOUだったが、チェーレは彼にいいの、と言って再びルリ-フリルラの方へと顔を向けた。
「初めて会った時、ルリちゃんは私にお家に帰らないのかって聞いたよね? “普通”の人たちには親がいて、一緒にお家で暮らしてるの」
「今の俺みたいに、親じゃない人と暮らすっちゅーのもあるんやけどな」
と、言葉をはさむYOU。
チェーレはそうだね、と言ってから言葉を続ける。
「捨てられちゃうのは、そのお家から追い出されちゃうこと……つまり、お家が無くなっちゃうってことだよ。えっと、ルリちゃんも私と同じような感じなのかなって思ってたんだけど、ルリちゃんは親に捨てられちゃったわけではないのかな……?」
チェーレは丸い瞳をさらに丸くし、ルリ-フリルラの瞳を見つめる。
ルリ-フリルラには親なんてものは存在しないし、家に住んでいたことも無ければこれまで人間界で暮らしていたわけでもない。
以前アリスから人間は家で暮らすという話は聞いていたものの、チェーレの言葉を聞いても“捨てられる”という感覚にあまりピンときていなかったルリ-フリルラは、彼女の問いにどう答えるのが“正解”なのか、さっぱり分からなかった。
「えっと……その、俺は――」
「あ、ごめんね。無理に言ってくれなくて大丈夫だよ」
ルリ-フリルラがなんとか言葉を探そうとしていると、チェーレが申し訳なさそうな表情でそう言った。
ルリ-フリルラは彼女の優しさに安堵する。
「私は、捨てられちゃったことがつらくないって言ったら嘘になっちゃうけど、自然のお友達がいてくれたから寂しくはなかったの。だから私は大丈夫だよ」
チェーレは力強くそう言うと、博士の方へと向き直った。
博士は、そんな彼女を見て少しだけ微笑む。
「差し支えなければでいいんだけど、嬢ちゃんは公園で暮らすようになってからどんな風に過ごしてたんだ?」
「うーん、どんなって言えばいいんだろう……。その公園には昔からある大きな木があって、その木さんは私の分からないことや知らない言葉を教えてくれたの。どうしてもご飯は食べないと生きられないから、食べられる実のことを教えてもらったり、あとは服は自然のものでどうにかできなかったから、必要になった時はお花とか実とかに声をかけて協力してもらって、摘んで街に売りに行ったりしてた……って感じですかね?」
「ふむ……よく頑張って生きてこれたな」
「えへへ、ありがとうございます」
博士の言葉にチェーレははにかんでから、そうそう、と話を付け加えた。
「この頭の鈴、ある時お花を売りに行ったお店でもらったんです。昔からあるモノみたいだったんだけど全然鳴らないからいらないって……よかったら売ってお金にしたらって言ってもらって。でも、自然のみんなにはこの鈴の音が聞こえるみたいで、私の居場所とか分かりやすくていいって言われたりして、そのまま身につけるようになったの」
チェーレの頭には、2つに結われている髪の結び目に1つずつ黄色い鈴が付いている。
しかし、その鈴の中にあるのは空洞のみで、彼女が動いても全く音はしていなかった。
「へえ。確かに今までそんな音は聞こえてなかったな。でも自然のモノには聞こえると……嬢ちゃんとの出会いは偶然にしても、ひょっとしたらそっちの鈴のが魔術と関連があるかもしれないな」
顎に右手を当てて考えるような仕草をしつつそうつぶやく博士。
ルリ-フリルラとYOUは、チェーレの鈴を不思議そうな目で眺めている。
そんな視線を受けているチェーレは、
「あんまり見られるとちょっと恥ずかしいな……」
と、少し頬を赤らめた。




