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「そういうわけだから、俺はそろそろ行くよ。また会えたらそん時はよろしくっ」
ランスはそう言うと、器用にひらひらと右手を振りながら体の向きを変えて歩き始めた。
やがて彼の姿が見えなくなると、博士が俺たちもそろそろ移動するか、と言って3人に示すように階段の方を指差した。
4人が2階と3階の間の踊り場に差し掛かった頃、前方から白衣姿の青年がやってきた。
背は高めで焦げ茶色の髪は短めに整えられており、白衣もその下に着ている白いシャツも、余計な皺も汚れも無くかっちりしている。
左頬には博士にあるものと似たような傷が横向きに入っていて、灰色の瞳はどこか陰りがあり伏し目がちだった。
青年は人の気配を感じたのか一度ちらりと前方に目を向けたが、すぐに足元に視線を落としてしまった。
「よおフラットラトラ。今日はこれから研究か?」
すれ違いざまに白衣の青年に声をかける博士。
しかしフラットラトラと呼ばれた青年は何も答えず、少し歩みを速めてその場を去ってしまった。
その様子を博士以外の3人は不思議そうに眺め、
「なんやあいつ。挨拶1つもせえへんなんて」
YOUが正直な気持ちを言葉にする。
それに対し、博士は時別気に留める様子はないようで、別に変なことじゃないさと軽い調子でつぶやく。
「あいつはまだ大学生だから正規の研究員ではないんだけど、有望な人材なんだ。学ぶことも多いだろうし疲れることだってあるさ」
博士の言葉にそっかぁと納得しているチェーレとどうでもよさそうにしているルリ-フリルラに反し、YOUはどこか納得のいかないような不満げな表情を見せていた。
「いやいや、それでも無言はおかしいやろ」
しかし、YOUが歩みを止めてフラットラトラの行った方に視線を向けつつそうぽつりと漏らした頃には他の3人は目的地への扉をくぐろうとしており、彼の言葉など全く届いていなかった。
「ちょっ、待てや! 何でそうなんねん! いくらなんでも無視しておいてくのはあかんやろ!!」
YOUは慌てて3人の元へと駆け寄り、扉を開けて客を招いている博士に睨みをきかせる。
博士は一瞬だけおや、というような表情を見せたがすぐににやりと口の端を吊り上げ、
「ごめんな、お前がついてきてないって全然気づかなかった」
「なんやそれ! 絶対わざとやろ!」
食い下がろうとするYOUに対し、博士は早く入れと言わんばかりに手の動きで彼に示す。
それを見たYOUは煮え切らないような表情をしつつも、はいはいと返事をして博士の部屋へと足を踏み入れた。




