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彼は両腕を上げてぐーっと体を伸ばすと、こちら側の視線に気づき、年相応の少年らしい人懐っこい笑顔を見せた。
普段ここにいるはずのない珍しい顔ぶれに興味があるようで、やや小走りで研究室の扉まで向かい、右腕で滑らかにガラス戸を引いて開けた。
どうやら腕の付け根から指先まで同じ機械製のようで、右手中指にはネックレスと同じ色の真っ赤な指輪がはめられている。
襟元に白いファーのついたワイン色の上着を羽織っているが、左袖は丁寧に捲くられているのに対し、右袖はちょうど腕の付け根付近で破れて無くなっていた。
「お疲れ、ランス」
「そんな言うほど疲れてないよ。でもありがとう。――それより、この人たちは?」
博士にランスと呼ばれた少年は、ルリ-フリルラたちの方を真っ直ぐに見つめる。
「彼らは私が誘って研究の見学に来ているんだ。この眼鏡の少年が今私の家においてるYOUってやつだ。YOU、彼がランスだよ」
博士がそう言うと、YOUは納得したようにああ、と声を漏らす。
どうやらこのランスという少年もYOUも、別々に博士からお互いの話は聞いてるようだ。
「お前がランスだったんやな。俺はYOU。本当はYOUなんて名前とちゃうねんけどな」
「博士から聞いたから知ってるよ。俺はランス。よろしくな。……えーっと、あとの2人は?」
ランスはYOUに挨拶してから、視線をルリ-フリルラとチェーレの方へと移した。
ルリ-フリルラがまた名乗らなければいけないのか、と考えているうちに、今回もチェーレがすらすらと答えてくれた。
「はじめまして、私はチェーレっていいます。こっちの彼はルリちゃんですっ」
「はじめまして。チェーレとルリチャンでいい?」
「……ルリでいい」
「そう? 分かった」
少しバツの悪そうな表情で訂正を入れたルリ-フリルラに対し、ランスはやや不思議そうにしつつもあっさりとした口調でそう答えた。
そんな2人のやり取りを楽しそうに眺めていたチェーレは、大きな瞳を輝かせながら一歩ランスに近づく。
「あのっ! 私、魔術師さんに会うの初めてで……! ランスくんはどんな魔術が使えるの!?」
「え? えーっと……」
チェーレと対照的にやや困ったような表情を浮かべてしまったランスに、博士が横から説明を加える。
「あのな嬢ちゃん。さっきはランスのことを魔術師だって話したけど、ちょっと特殊で、正確にはこいつ自体が魔術師ってわけじゃあないんだよ」
「そ、そうなんですか?」
不思議そうに目を瞬かせるチェーレ。
博士は説明を続ける。
「さすがに気づいてないってことはないだろうが、ランスの右腕は作りもんだ。これは私が作ったもので、あのネックレスと指輪に人工的に注入したとある魔術師の魔力で動かせるようになってるんだ。実際この腕にはいろんな術が組み込まれてるんだが、簡単に言ってしまえば“モノを動かす魔術”をランスが使えるようにしてるってとこだな。魔術の使用者という意味で、さっきは魔術師って言葉を使ったってわけだ」
「そういうこと。だからあんなすごそうな機械の中にいたからって、多分君たちが考えてたような魔術は使ってなくて、例えば右腕を上げたり下ろしたりとか、そういう地味な作業の実験なんだよね。博士のお陰でこの腕を得ることができたし、もともと博士とはそのことでお世話になる前からの馴染みだったってのもあって、研究の役に立てそうな時はこうして実験の手伝いとかをしてるんだ」
「まあ、実験とはいっても、ランスの場合は腕のメンテナンスが主な目的だな。不具合やらなんやらが起きて体に負担がかかってはいけないからな」
「そうだったんだぁ」
納得したように何度か頷くチェーレ。
そして、新たに浮かんだ疑問を博士に投げかける。
「魔術師って、どういう人がなるものなんですか? ランスくんみたいに、誰かの力で魔術を使う人は魔術師って呼ばないんですか?」




