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「お前と一緒に事故に遭ったのは七瀬壱斗っていうやつで、ここから少し離れたところの学校の生徒だったらしい」
「へえ、何でそないなことかえでが知ってんのや?」
YOUが不思議そうに聞くのも無理はなかった。
この事故のことはニュースとなって国中に流れていたのだが、その際事故に遭った2人の名前も学校名も伏せられていたのだ。
「お前の親もあっちの親も、国中に息子の名前知られて騒がれたり同情されるのが嫌だったんだろ。今もたまに警察とか政府の関係者が話聞きに来たりはしてるみたいだけどな。俺のとこにも人が来たことあって、その時にその七瀬ってやつの名前を聞いた。それと……初めてお前の両親にも会った」
「そ、そうか……」
そう答えたYOUの顔色は、先程までのものとは少し違っていた。
「あ、父さんや母さんが言ってたことは何も言わんでええで」
「そんなこと言われなくても、特別お前に言うようなことなんてねえよ」
「はは、せやな」
その後少し沈黙が続き、
「そうや! かえで、最近の調子はどや? まあ見た感じ元気そうやけど」
「別に普通だよ。でもまた最近面倒なのが来て……」
かえでがそこまで答えたところで、
「この子がかえでさんのお友達なの!?」
突然かえでの右隣から少女の姿が浮かび上がってきた。
「うわあ!?」
驚いて少しのけ反ったYOUに対し、ルリ-フリルラとチェーレは不思議そうにYOUの方に視線を移しただけだった。
かえでの隣に現れた少女の声も姿も、ルリ-フリルラとチェーレには見えていなかった。
「なんだよいきなり……」
「YOUくん?」
少し呆れた様子のルリ-フリルラと心配そうなチェーレ。
かえではちらりと少女の方を見ただけで、YOUには目もくれていなかった。
「……はっ! ひょっとしてこの子霊なのか!? 俺もう死んでるから視えるっちゅーことか!?」
そう言ってYOUがまじまじと現れた少女を見てみると、彼女の足は地に浮いていたし足元は霞んで見えづらくなっていた。
「びっくりさせてしまってすみません……! はじめまして、私は熊野美沙子といいます」
そう言って、美沙子と名乗った少女は丁寧に頭を下げた。
美沙子の藤紫色の髪は肩の位置で綺麗に切りそろえられていて、右側にだけ髪留めが留められている。
優しそうな瞳は紫色で、一見大人しめな美人といった印象だ。
服装は、彩度の少し低い桃色の着物姿だった。
「これ、革前服やん。初めて見たわぁ。美沙子ちゃんに似合てるしなかなかええもんやん」
「わあ、ありがとうございます! かえでさんから聞いてましたが、本当に革前服って言うんですね!」
美沙子は嬉しそうに礼を言って目を細め、YOUもつられてふっと微笑んだ。
シンスン国では着物のことを革前服と呼んでいて、洋服のことを革後服と呼んでいる。
名前の通り、革前服は革命派と旧政権との戦いが起こる前に主に着られていたが、旧政権が滅んでから身につけることを禁じられ、現代の人々は資料として見掛けることすらほぼ無い状態となっていた。
学生は歴史の授業は受けるものの、過去に影響を受けてはいけないという政府の考えから、旧政権時代の文化については教わることができない。
今、旧政権の文化についてよく知っているのは、歴史研究の専門家と政府のお偉いさん方だけなのだ。




