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YOUと博士の話をチェーレはにこにこと、ルリ-フリルラは興味が無さそうに黙って聞いていたが、突然ルリ-フリルラの体に変化が訪れた。
一言で言ってしまえば、彼の意思に反して体が勝手に動き始めたのだ。
アリスに気をつけろと言われ、それを充分に理解していたはずだったのだが、何故か人間界では禁忌とされている黒魔術が発動しようとしていた。
ルリ-フリルラの右手付近から黒い光が集まり始め、彼はそれをなんとか食い止めようと体に力を入れる。
――何でこんな……。
俯き、表情に焦りを見せるルリ-フリルラ。
どうやらこの勝手に動き出した体は、彼の破壊魔術を使って博士を殺そうとしているようだった。
この博士とやらはアリスにとって都合の悪い相手なのだろうか。
アリスはルリ-フリルラの動向を掴めているからこそ、今を好機としてルリ-フリルラを操り博士を殺そうとしているのか。
しかし、力に気をつけろと言ったのはアリスだ。
そもそも、これはアリスから出されたルリ-フリルラに対しての命令なのだろうか……。
目を丸くしているYOUと、注意深く観察するような視線の博士。
チェーレは、焦りと混ざって苦痛ともいえる表情を浮かべ始めたルリ-フリルラをなだめるように触れようとする。
「ルリちゃん……」
「俺に触るな!!」
彼の言葉に、チェーレはびくっと体を震わせて手を止める。
「俺に触るな……」
やがて、意思と逆らっていた体の動きは収まった。
ルリ-フリルラは力が抜けたようにがっくりとうなだれ、膝に両腕をついて息を荒くしていた。
「な、なんや今の……」
呟くようなYOUの言葉に、誰も答えを出さなかった。
チェーレは心配そうにルリ-フリルラを覗きこんでいたが、もう触れようとはしていないようだった。
ルリ-フリルラに異変が起きてから一言も発していなかった博士は、YOUの隣に腰掛けて静かにルリ-フリルラを見つめた。
「予定が特に無いなら、落ち着くまでここにいるといい。お嬢ちゃんは大丈夫か?」
「あっはい、私は大丈夫です」
チェーレはそう答え、姿勢を正した。
その様子を見て博士は優しく微笑むと、語りかけるような口調で話を進めた。
「俺は普段、大学の研究所で魔術についての研究をしているんだ」
「魔術の?」
不思議そうに目を丸くするチェーレ。
博士は肯定し、再び口を開く。
「ちょうど今大きな研究も終わったところだし、よかったら今度3人で遊びに来ないか? YOUも来たことないだろ? ぜひ会わせたい仲間もいるし、俺も少し気になることができたしな」
視線を感じて顔を上げたルリ-フリルラは博士と目が合った。
開かれているのは左目だけだが、彼が何かしら感づいていることは何も言われなくても伝わってきた。
彼は魔術の研究をしてると言っていたし、アリスが彼に思うところがあるとしても不思議ではないのかもしれない。
ルリ-フリルラには2人の関係など分からないが、今後また博士と関わって今回のようなことが起きてしまったらと思うと、あまり彼の誘いには気乗りしなかった。
しかし、変に断っても怪しまれそうだと思い、彼の口からは何も言わないことにした。
チェーレは誘いが嬉しかったようで、キラキラと瞳を輝かせていた。
「わぁ、ぜひ行きたいです! 魔術のことは私には分からないけど、研究がどんなものか見てみたいです!」
「魔術を持たない人は、こうして研究とかで関わらない限り無縁な人生を送るからなあ。あまり詳しい研究内容は教えられないけど、聞きたいことがあったらその時に何でも聞いていいからね」
博士がそう言って微笑むと、チェーレは嬉しそうにはい、と答えた。
そんなやりとりを何も言わずに眺めていたYOUだったが、ふと思い立ったように両手をパン、と合せた。
「俺の話もしたし、せっかくやから博士んとこ行く前に俺が死んだとこも通って行こうや。きっと誰かが花供えてくれてるやろしな。本人に見られへんかったら供えた意味なくなっちゃうやろ」
「お前はまたそうやって自らバレそうなことを……」
呆れたような博士に対し、
「心配せんといてや! 今日眼鏡新しくなったし、学生がおらん時間に行けば大丈夫やって!」
と、YOUは身バレしない自信があるようだった。
しかし、少しだけ不安げな表情を見せ、
「まあ、あいつに会わへん限りはな……」
結局、ルリ-フリルラとチェーレとYOUの3人は3日後に再び博士の家の前で会うこととなった。
先ほど出ていた案の、YOUの事故現場を通って博士のいる大学へと向かうコースだ。
ルリ-フリルラの体が落ち着いた頃、チェーレは博士とYOUに一礼し、ルリ-フリルラと共に彼女の居場所である公園へと帰っていった。
帰路では2人は何も話さなかった。




