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ルリ-フリルラには“心”が無い。
魔界の生き物であるルリ-フリルラは、同じく魔界に生息する黒魔術師に召喚され、召喚された黒魔術師に何かしら動作を要求されることによってはじめて動きを見せる。
姿形は人間とそっくりだが寝食は必要とせず、数的には魔界に住む生物の大部分を占めているが、1人1人に名は与えられていない(召喚した黒魔術師が個人的に名をつけるということはある)。
そんな中、たった1人だけ、何故か“心”を持ち、自ら言動するルリ‐フリルラが存在していた。
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魔界というのはつまらないところだ。
自分がいつどうやって生まれたかなんて分からないけれど、俺はルリ‐フリルラという魔界の生き物であって、普通のルリ‐フリルラには“心”ってもんが無くて、俺や黒魔術師と同じように自分の意思で動いたり喋ったりしないんだってことくらいはすぐに分かった。
どのルリ‐フリルラも白か黒、もしくはその2色の服を着ていた。自分の顔がどんななのか知らなくても、俺の着ている服が他のルリ‐フリルラと同じ白と黒だってことは自分の目で確かめることができる。
白いシャツに黒のスーツ、同じく黒の膝丈くらいまであるブーツに縞々のネクタイ。
髪は少し長かったから服と同じように見ることができて、黒色だってことが分かった。
これだけは予想になってしまうけど、目も同じように白か黒なのかもしれない。
たくさんいる俺以外のルリ‐フリルラは、誰もが生気の無い目をしている。
もちろん話しかけても返事どころか動くことすら無いし、召喚者の黒魔術師の命令がない限り、向こうから何かしてくるということも全く無い。
黒魔術師が操って動いたとしても、俺にルリ-フリルラで何かしてくるやつなんていなかったけど。
俺には他のルリ‐フリルラを召喚して操るということもできないし、もしできたとしても何かやりたいことがあるというわけでもないし、それが暇つぶしになりそうにもなかった。
黒魔術師は普段仲間とつるんでその辺で遊んだり、人間界に顔を出して、自分のルリ-フリルラを使ったり使わなかったりして人間にちょっかいを出したりっていう毎日を繰り返しているようだった。
人間界の人間たちは魔界のことを知らないし、こっちに来ることもできない。でも、こっちの世界のやつらは自由に魔界と人間界を行き来することができるらしい。
こっちの世界のやつらといっても、自力で行き来できるのは黒魔術師だけの話っぽくて、召喚されていないルリ-フリルラが自分の力だけで人間界を覗くなんてことはできなかった。
たまに面白半分で話しかけてくる黒魔術師はいたけど、そんなの全然嬉しくなかった。
相手にしてくるやつらは俺に興味はあっても自分のものにする気は全く無いみたいだった。
でもそれはこっちからしたら唯一ありがたいことだった。
どうせなら、誰かの命令に強制的に従わされるより、このまま誰にも召喚されずにずっと暇でいる方がマシだと思うからだ。
魔界には昼も夜も天気も無い。
黒魔術師は分かっているのかもしれないけど、ルリ-フリルラの俺には時間の感覚が分からないから、自分がここに生まれてどれくらいの時間が経ったのかなんて全く分からなかった。
もし分かってたとしても、どうせやることも何も無いんだから、とても退屈でつまらないことには変わりがないのだけれど。