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フェバル保管庫  作者: レスト
裏プロローグ(旧)
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「あの日私に起こったこと」

 私たちには両親がいない。幼いときに二人とも事故で死んでしまった。


 一応親戚が引き取ってはくれたけど、彼らはあなたのことを鬱陶しく思っていたようで何かと辛く当たられたよね。


 あなたはあまり迷惑はかけたくないからと言って、中学卒業を機に一人暮らしをすることにした。彼らも喜んだようで、あなたはせいせいしていた。


 高校はというと、あなたは勉強を頑張ってたから、学費免除で入れるところがあったのが幸いだったね。お金はないから、部屋は学校の近くの安いボロアパートを借りてた。


 バイトをして、帰ってきたら勉強。そんな感じの生活だった。


 それだけの、至って普通の高校生というには変かもしれないけど、まあ常識的な範囲内の人間だった。けれど、そうだった日々は、今は遠いことのように思える。


 事の発端から始めよう。


 あなたは、最近よく変な夢を見ていた。


 夢の中で、あなたは真っ暗な空間に立っている。あなたの目の前には、肩の少し上まで伸びた黒髪を持つ女の子、私が立っている。あなたは私と見つめ合っている。


 あなたは私のことなど全く知らない。けれど、不思議と赤の他人のような気はしなかったと思う。なぜなら、私たちはとっくの昔に出会っているから。


 あなたは、声も高めで顔つきも割と中性的だけど、それでも体つきはそこそこがっしりしているし、背も平均的にはある。ちょっとは男らしくなったよね。


 夢の中のあなたは、私に手を伸ばす。私も同時に手を伸ばす。それは鏡合わせのように対称的な動きだった。


 そして、あなたの手と私の手が触れた瞬間、二人の手は境界を無くし、互いにすり抜けるようにして入り込んでいった。そこを始めとして、少しずつあなたの体が私に融け込んでいく。


 あなたは体中に、蕩けるような快楽と、燃えるような熱さを感じて――


 ってちょっと待て。私があなたの中に入るとき、別にそこまでは気持ち良くないからね。少し思春期の妄想入ってるんじゃないの。


 とにかく、あなたは最近そういう夢をよく見るようになった。これは能力が目覚める兆候に違いない。きっともうすぐ会える。


 だけど、違ったの。


 16歳の誕生日を迎えた夜。その日も、あなたは夜遅くまでバイトだった。帰り道の途中で、あなたは目の前に異様な人物が電柱にもたれて佇んでいるのを見た。


 その金髪の女性、エーナにあなたは危うく殺されかけた。私は見ていることしか出来なくてもどかしかったよ。


 そして、彼女によってあなたはとうとうフェバルの運命を聞かされることになった。私はこれまでの経験からとっくに推測出来ていたことだったけど、あなたは酷く動揺していた。


 でも負けないで。たとえどんな運命が待ち受けていたって、私はずっとあなたを支えるから。一緒に頑張って――


 その瞬間、心の世界が荒れ狂った。


 なに!? 一体何が起こってるの!?


 光の激流が生じ、私はその場を立っていられなくなる。


 おかしい。こんなこと、あり得ない。まだ能力だって覚醒していないのに。


 ――いや、目覚めつつある!?


 まさか。どうしてこんなことが!


 ユウが苦しんでる。能力が狂って、無理に変身が起きようとしてる。


 早く助けにいかないと!


 しかし、荒れ狂う流れが邪魔をして、私は中々ユウがいるところまで辿りつけない。


 必死にもがいて向かおうとしたが、やがて流れが落ち着く方が先だった。


 それを見計らって、私はユウの中にそっと入り込んだ。


 よし。これであなたの力になれる。


 すると、私たちの能力の疑似暴走を引き起こした謎の男――ウィルが現れた。


 彼を見たとき、なぜか一瞬見覚えがあるような気がした。


 だが、気のせいに違いなかった。私はこんな奴など知らない。


 心の世界にも記憶がないから、間違いないはず。


 やがて、彼は突然服を引き裂いた。私の胸が露わになった。


 私は激しい怒りを覚えた。


 その後も彼は好き勝手なことを言い、やってくれた。


 震えるあなたを見て、私はもう我慢ならなかった。


 成長した今なら、少しは能力を使っても大丈夫かもしれない。


 ユウ。こんなふざけた奴、一緒にとっちめよう。


 そう思ったとき、彼がユウの顔をじっと覗き込んできた。


 ――こんなに凍てつくような目は、今まで見たことがなかった。


 倒そうと思っていた気持ちが簡単に萎えてしまう程の、圧倒的な恐怖が込み上げる。


 それでも私がしっかりしなければ、ユウの心が折れてしまう。私は必死に恐怖に耐えようとしていた。


 そのとき、なぜだろう。急に私の意識が遠くなりかけたのだ。


 信じられなかった。


 どう……して……


 私がしっかりしなくちゃ、ユウは力を出せないのに。


 朦朧とする意識の中で、私はユウの目を通して彼の姿を心に焼き付ける。


 彼はじっとユウのことを見ていた。瞳の奥を覗き込むように、あなたのことを。


 いや――


 まさ……か……


 気付いたときは手遅れだった。


 彼が狙っていたのは、最初からユウに潜む私だったのだ!


 おそらく、邪魔な私を眠らせようとして――


 そんな……そんな……!


 ダメ……意識が……


 なくなる。なくなってしまう。


 私は最後の力を振り絞って、聞こえているかわからないままあなたに警告した。


 ユウ……こいつは……あまりにも危険よ……


 気を付けて――――


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

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