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フェバル保管庫  作者: レスト
剣と魔法の町『サークリス』 前編(旧)
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19「星屑祭二日目~三日目 予選の顛末 そして」

 結論から言えば、予選は楽勝だった。


 私は第四試合に出場した。


「はい! ただ今から、個人戦予選の第四試合を始めます!」


 司会はさすらいのトーマスから、本来務めるはずであったベラ・モール先生に戻っていた。


 試合が始まると、他の四人は前評判もそこそこにある私を集中的に狙って、落とそうという作戦を取ってきたんだ。


 左方から風魔法『ラファル』、右方から火魔法『ボルクナ』、中央から雷魔法『デルスラ』。いずれも中位の攻撃魔法を放ってきた。


 残りの一人は、一見すると何もしているようには見えなかったが、実際そうであるとは考えにくかった。


 危険を感じてその場を退くと、直後に足元を縛ろうとする、土の拘束魔法『ケルダー』がその姿を現した。これに掴まっていたらやばかったかもしれない。少し危なかったシーンだった。


『ケルダー』を対処したことで、残りは三つ。差し迫った状況に、何度も魔法を使う余裕はない。一手で打破しなければならないが、さてどうしたか。


 私は、左手でオリジナルの風魔法『ラファルス』を相手の『ラファル』にぶつけるように放ち、同時に右手で水壁魔法『ティルモール』を展開した。


 火と雷は水の壁でどうにかして、風だけは水を切り裂いてしまうから、同じ風をぶつけることで打ち消すことにした。


 この判断は功を奏し、全ての攻撃をしっかりと防いでくれた。


 彼らは作戦が失敗して動揺していた。反撃するなら、今がチャンスだろうと私は判断した。


 この日はこの一試合だけであり、余程無理をしなければ翌日には魔力は全快する。だったら、魔力を出し惜しみをする必要なんかないと思った。


 それに、直前の攻撃と動揺っぷりから、四人の実力の底も露呈していた。ごり押しでも問題ないだろうと考えた。


 トーマスの話を聞いてかなり気が滅入ってた私は、気晴らしに派手にかましてやることにした。


 燃やし尽くせ。


『プロミネンス』


 非常に強力に燃え盛るガス状の炎が四つ、うねるようにしてそれぞれ四人へと飛んでいった。


 彼らは必死に打ち消そうと水魔法を放っていたが、無駄だった。中位の水魔法『ティルマ』ぐらいでは、これほど強い火は消せない。


『プロミネンス』は『ボルアーク』の亜種として、新たに考案した魔法だ。太陽の発する紅炎に見た感じがよく似ているから、そのまま名付けた。威力こそ凄まじいが、『ボルアーク』よりかなり魔力の燃費が悪いから、実際には使い勝手が悪い失敗作だった。


 それでも使ったのは、先程言ったように高い魔力に任せただけのごり押しに過ぎない。おそらく実力者にはそう簡単に通らず、魔力の無駄遣いになってしまうだけだろう。


 だけどまあ、このときはしっかりと全員に当たり、彼らは砂地を転げ回った。


 放っておくと本当に相手を燃やし尽くしてしまいかねないので、危なくなる前に数秒程度で解除した。


 四人とも、もはや立ち上がることが出来なかった。


「勝者、ユウ・ホシミ!」


 ベラ・モール先生によって試合の終了が宣言された。実にあっけない決着だった。


 爆・炎! 爆・炎! 爆・炎! 爆・炎!


 すると、どこからともなく爆炎コールが沸き上がった。


 しまったと思った。あんな派手な火魔法一発で決めてしまっては、私の爆炎女としての異名をさらに高める結果となってしまったことに、そのとき初めて気付いたのだ。


 魔法のチョイスをミスったと後悔したが、時既に遅し。


 本当は風魔法の方が好きなのに。


 鳴り止まぬ爆炎コールを背に受けながら(もちろんアリスも一緒になって楽しそうにやってた)、私は恥ずかしいような、鬱陶しいような気分を抱えつつ、闘技場を後にしたのだった。





 夜にミリアから、朝に起こった殺人事件のことを聞いた。それから関連して、少し気になっていた仮面の集団のことについても聞くことが出来た。


 どうも、ロスト・マジックを信奉する危ない奴らということらしい。


 それで、ミリアはこう言ったんだ。明日はどうしても調べなければならない用事が出来たから、しばらく一人で動きたいって。決勝戦まで残っていれば、もしかしたら間に合うかもしれないと。


 結局、アリスだけがすぐに見に来てくれることになった。





 翌日。本戦に臨んだ私は、運良くアーガスとは決勝まで当たらない組み合わせになった。一回戦、準決勝をどうにか勝ち上がり、当然のように勝ち上がってきたアーガスとの決勝戦を迎えることとなった。


 それまで、大きな怪我はなく、魔力の消費も上手く抑えられたので、良いコンディションで彼との戦いに臨むことが出来た。


 入場すると、場内はこれ以上ないくらいに白熱した。私は手を振ってその熱に応えた。前を見ると、アーガスもこなれた感じで声援に応えていた。一部、女子ファンの黄色い声援が混じっている気がするのは、きっと気のせいじゃないだろう。


 途中、観客席で応援しているアリスの方を見た。アリスは、まさに全身を使って私のことを応援してくれていた。それを見て私の心はますます弾んだ。


 まあミリアがどこにも見当たらないのは少し残念だったけど、それは仕方がない。きっとまだ忙しいんだろう。


 ついに私とアーガスは闘技場で向かい合った。あのときした入念な準備の下に全力で戦うという約束を、今こそ果たす時が来たんだ。


 この場にいるほとんど誰もが、間もなく始まる試合を楽しみにしていたことだろう。


 ――そして誰もが、間もなく起こる惨劇など知る由はなかったに違いない。

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